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妖狐と少女

覗き込むようにスイを見つめる柚香。 その目は、まるで宝石の光を反射したみたいに輝いていた。あまりに眩しすぎて、スイはうつむくばかりだった。 「………見るな、阿呆」 出来るだけ低い声で、ぽつりと呟く。すると、柚香は口を抑えて、くすくす声を上げた。 何が面白いんだと、思わず顔を上げてしまう。そこには、優しく微笑む女の子の顔があった。 スイは、天使が人間に生まれ変わったら、こんな顔なのだろうかと思った。 自分の意思とは関係なしに、棘まみれの心が、溶かされていく気がした。 「あははっ、スイ様ったら。恥ずかしがることないのよ!」 「……!は、恥ずかしくなんかないわ!」 「あらっ、本当?えへへ、ごめんなさい」 「……」 素直で、ふわふわしていて。 「あの、私、ずっとスイ様に渡したいと思っていた物があって。これを…」 どこまでも、汚れがない。 「……あ、」 (みず、まんじゅー……!!) 「良ければ、一緒に食べませんか?」 差し出された美しい菓子に、ゴクリと喉が鳴った。これは、水まんじゅうではないか。紛れもなく、あの、昔からの大好物の。 食べたい。今すぐにでも、もぐもぐしたい。 あの柔らかい皮にかぶりついて、甘い餡を深く味わって…。 (水まんじゅう食べたい………!うぅでも、なんで柚香とっ……!) ニコニコとスイの答えを待つ柚香。 スイが承諾すると信じて疑わない様子だ。 真っ直ぐな視線が眩しい。 (水まんじゅう、柚香、水まんじゅう、柚香…!) 考えに考えたが、結局脳がプシューと音を立てて、パンクした。 「うぅぅ、一個だけ、食べてやる…」 ――思考がごっちゃになった末に出した素直じゃない答えにも、柚香は圧倒的光属性の笑顔でうなずいたのだった。  きまりが悪すぎて、一人で百面相するスイ。尻尾が何度も地面を叩きつけていて、痛くないのか心配になる程だ。 ふわりと渡された水まんじゅうの香りに、瞬時に尻尾は上に向いたが。 「いただきまーす!」 「い、いただきます…、」 二人で縁側に座り、甘いそれを頬張る。 「スイ様、どうですか?」 楽しげに尋ねられるが、スイは黙ったままだった。 ただただ、口をもぐもぐと動かしている。もちろん、尻尾は左右に揺れたままで。 ふふ、と柚香が微笑んだ。 「良かった」 鈴のようなその声は、聞こえていた。ふわふわの獣の耳に、しっかりと。 返事など、している暇は無かったけれど。

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