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第1話
絶対に俺は許さない!
俺は恋人であり同居人の拓真への怒りが収まらないまま、湯船に浸かっていた。入ってきたら一生口きかないと言ってあるので侵入者があらわれる様子はない。
拓真なんてしらない!
顔を沈めてぶくぶくと泡を吹いても、気持ちが落ち着くわけもなく、もういい別れてやる!と心の中で叫んだ。
事の発端は1時間前。掃除をしていたら見覚えのない段ボールを見つけたことが始まりだった。
部屋の隅に置かれた小さな段ボール。通販でなにか頼んでたっけ、と特に考えもせずそれを開けた。
「翔!それ開けちゃだめ!」
気づいた拓真が慌てて止めるもすでに手遅れ。中身を確認するなり顔を真っ赤にして固まってしまった。
「なっ、なにこれ…」
そこに入っていたのはいわゆる大人のオモチャと言う物達。ピンク色のローターや、バイブ、電マ、使い方がよくわからないものまである。
「えっと…翔、それは…」
「さいってー!」
バツがわるそうな顔をして弁明しようとする拓真をキッとにらみつけて言葉を遮る。
「お前、浮気しようとしてたのかよ!」
「へっ…?」
突然出てきた浮気というワードの意味がわからず拓真は面食らった顔をしていた。
「だって、これ女の子に使うやつだろ!」
「いや、べつにそういうわけじゃ…」
「じゃあなんだよ、これは!」
そう言ってメイド服のコスプレ衣装を突き出した。しかも、パッケージに映るおねーさんを見る限り布面積が少ないそういうやつだ。拓真はこういうのが好きだったのかよ。
「いや、だから、それも…」
「しかもこんなのまである!」
それを掴んで拓真に投げつける。おっと、とキャッチしたそれを見て、あぁ、これは…と目をそらして頬をかいた。
「それって、ぉ…おなっ、オナホだろ!なんだよお前、俺じゃ満足できないからってそんなの使いやがって…」
「いやだから違うんだって!」
お互い満足なセックスができてると思っていたのに自分だけだったのかと思うと、なんだか悔しくて涙が滲んできた。
慌てて拓真が駆け寄ってくるが、その場から逃げ出す。
「もういい!俺風呂入るからその間に頭冷やしとけ!」
また、ぶくぶくと泡を吹いては心の中で拓真を詰る。
なんだよ、あんなの買い込みやがって、そんなに女の子とヤりたかったのかよ。しかも、俺じゃ満足できないからってオナホまであるとかホント最低じゃね。
まだまだ怒りは収まらなかったがこのままだとのぼせるので仕方なく風呂からあがる。身体を拭いてパジャマを着ようとし確かに持ってきたはずのパジャマがなくなっていることに気がついた。
しかもその代わりに、黒地の布にレースがあしらわれた見覚えのあるものが置いてある。
「拓真!おまえ、なんだよこれ!」
仕方なく下着のまま脱衣所を出る。ソファで寛ぐ、既に反省の色の無い拓真に詰め寄った。
脱衣所に置かれていたのは先程のメイド服。着方がわかるよう、ご丁寧に着用イメージの写真まで添えられていた。
「なんだ、着てくれなかったの。」
「なんだって、これ女もんだろ!こんなの着ないから!」
手に持っていたメイド服を拓真に投げつけた。
「別に女ものって訳じゃないし、翔のメイド姿見たかったのにな。」
それはまたの機会に、と呟きながら拓真は大切そうにメイド服を畳む。
「翔、なんか勘違いしてるみたいだからこっち来て。」
真剣な顔で呼ばれ、渋々拓真の隣に腰を下ろす。そこじゃないでしょと自分の膝を叩いているがそれは無視した。
「…まぁいいけど。翔。これも、さっきの箱の中身も全部翔のために買ったものなんだよ。」
「はぁ?いや、だって…」
「うーん、翔はこういうことに疎いもんね。仕方ない。」
まぁそういう所もかわいいからいいけど、と拓真が立ち上がると身体がふわりと浮いた。正しくは拓真に抱きかかえられていた。
「てことで、これから証明しよっか!」
不穏なことを言い放つとそのまま寝室へと連行されていった。
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