18 / 665

赤ずきんの檻 16

「産むぅ  お が  み、さんの、  赤ちゃん  ぅ」  淫らに動いていた腰が止まり、ぎゅうっと爪先にまで力が入ったのが見て取れた。  震える花芯から薄い白濁の液体が一筋溢れ、大神の首筋に爪が食い込む。 「ィ あ、あ   」  達した衝撃で開かれた咥内に、有無を言わさずに大神が薬を押し込む。  駄々っ子のようにもがくあかの口を手で覆い、もう片方の手で腰を引き寄せる。 「   子種なら、幾らでも注いでやる」  耳元で囁かれた言葉に、さっとあかの頬に赤みがさして、険しい表情を見せていた目がとろりと艶を帯びる。 「 子種  くれる?」  艶やかに笑み、あかは再び腰を擦り付けるように卑猥な動きを見せた。  また小さく上がり始めた嬌声に、運転手はさすがに眉間に皺が寄るのを隠せなかった。 「大神さん!保護するだけって言ってたじゃないですか!」  一心不乱に腰を振り続けるあかを膝の上に乗せて、大神は盛大に顔をしかめて見せる。 「保護   は、する」 「なんで手ェ出してんですか!」  むぅ……とらしくない表情を見せて、大神はしかめっ面を更に険しくさせる。 「   ヒートを起こしていたから」 「もう一本の煙草だってあるんでしょう⁉︎」  運転手は大神が吸う煙草に種類があることを知っていた。    一本はΩを興奮させる物。  もう一本は、それとは真逆の効果を持つ物だった。  もし本当の発情期だったとしても、それを使えば抑えられることも知っている。そして自分以上にそれを大神が熟知していることもわかっている。  けれど、それをあえて使わなかったのは…… 「なんでこんな回りくどいことしてんのかと思ったら……そーですか、大神さんもただの男ですか」  何か言い返そうと開きかけた口を閉ざし、大神は乱れた髪をかき上げた。  見惚れるような男らしい横顔に一瞬騙されそうになったが、運転手はいやいやと首を振る。 「ごまかされませんからね」  観念したように口を開こうとしたが、その隙間を狙ったかのようにあかが吸い付いてくる。尖らせた舌を器用に動かし、そう言う動きをするものだと熟知した滑らかさで大神の咥内を舐め上げる。  それは二人の会話を中断させるには十分な濃厚さで。 「とりあえず、空気入れ替えますよ」  雰囲気が変わってしまった以上、どうしても聞き出すことができないだろうと、運転手は諦めて窓を少し開けた。  わずかにαの特性を持っているだけだと言うのに、あかのフェロモンのおかげで脈が異常に速く、目が回りそうだった。 「  はぁ」  熱気を伴っているかのような錯覚を起こさせる、濃密なΩのフェロモンが起こった風に掻き混ぜられ、一瞬部屋を満たす。  けれどそれも儚いもので、外に出て濃度が下がれば誰にも気づかれない物となる。 「この部屋の窓、その子が毎朝通ってる道の真上なんですね」  ビルの入り口自体はその道の裏になるが、事務所の机の側にある窓の下はあかが毎朝通る道だ。  運転手は下を見下ろし、所々水の溜まったコンクリートに目をやる。  薄汚い、どこにでもあるような路地だった。  そしてその路地を毎朝毎朝、大神がほんのわずかな間、見下ろす習慣があることに気づいていた。  視線がゆっくりと道に沿って動いていることも。  男らしい横顔が、普段の険が取れて微かに柔和になっていることも。  風が抜けて、匂いが薄まる。  部屋を満たしているフェロモンが薄まれば、煙草で誘発された発情期ならば直に治まるだろう。 「  と、思ってたんだけどさ」  粘液の捏ねられる音は止みそうにない。 「とりあえず、こちらの方の処理はしておきましたんで。あとはごゆっくり」  懐から出したそれは、あかが母親から預かった物だ。  中には手紙が一枚のみ、  『お借りしている金額で、このΩをお売りします』  女の文字で書かれたソレを持って、あかがΩに関して暗い噂のある大場組に辿り着いていたらと思うと……  運転手は入り込んだ空気の冷たさにブルリと体を震わせ、これ以上邪魔をしないように扉へと向かった。

ともだちにシェアしよう!