22 / 665

雪虫 1

 ろくなもんじゃない。  パチンコ狂いの手癖の悪いババァと、あちこちの人妻に手を出しては慰謝料請求されたり刺されたりするジジィとの間に生まれた子供なんて、ろくなもんじゃない。  まぁ……オレの事なんだけど。  ジジィの何人目かの不倫相手の旦那から慰謝料請求されたが、パチンコ狂いで借金まであるババァと学生のオレじゃ払える訳もなく。  殴られ蹴られ浮気もするジジィの為に、金を工面しようとしたババァが人様の物に手を出して捕まった。  しかも、捕まったと言っても警察じゃない。  むしろ警察の方が良かった。 「こいつらの息子のしずるはお前だな?」 「…………」  声が出ず、頷いて返すのが精一杯だ。  固い事務所の床に正座していると、冬の冷たさが骨身に滲みるようだった。  普段なら辛いと思えば足を崩すなり座布団を敷くなりとするが、強面の男陣に取り囲まれてそんな事をする勇気が起きなかった。  緊張で力の入る腿の上で拳を握りしめる。  目の前の床で転がる両親は顔が判別つかないくらい変形してしまい、最初見た時は逝っているのかとぬか喜びをしたくらいだ。  次はオレがこうされるのだろうか?  オレは関係ないから!  そう軽く言って何事もなかったかのようにこの事務所を飛び出してやろうかとも思ったが、チンピラと言うにはあまりに恰幅のいい男達ががっちりと脇を固めているためにそれも出来ない。  沈黙に耐え切れずに喉に唾を送り込むも、ご……と中途半端な音を立てて喉が貼り付きいて乾いているのだと実感するだけだった。  どうする?  そこに転がってる両親を助けようとは端から思ってもいないから、逃げるのはオレ一人だけだが、ひょろひょろとしたこの体格でこの人数をかいくぐって逃げるのは不可能でしかない。 「     で、だ」  浅黒い肌、仕立てのいいスーツに身を包んでいても筋肉がよく分かる屈強な男が口を開く。  確か、周りの男達には大神とかなんとか呼ばれていたような…… 「どうする?」 「……ど、ど って」  貼り付いた喉からはきちんとした言葉が出ず、ひっくり返ったような言葉を宥めるために喉元を押えた。  いつのまにかぐっしょりと濡れたシャツに手が当たり、小さな体の震えに今初めて気が付いた。 「か、か、金……は、返し  」 「それは当然の話だろうが」  激しくはないが、冷静で低い声音の言葉はオレの言葉を叩き潰すのには十分だ。 「今回の事でこちらは被害を被った訳だ」 「はい」  きちんと返事をしたつもりだが、多分周りには「ひぃ」としか聞こえていないだろう。   震えるしかできない。 「お前、こいつらの片棒担いでたんだって?」 「かた……片棒?」  もうこいつらに何か迷惑をかけられ、その尻拭いをするのは日常茶飯事すぎて、そのどれが片棒になったのかすぐには思い出せない。

ともだちにシェアしよう!