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雪虫 7

 滑る廊下を駆け出して、大神に怒られるんじゃないかと言うことも思い出せないくらい、足が急かされて気が急いて……  初めて来た場所でどうして  ?  そこがどこのドアなんて関係ない。  開いたドアに鍵がかかってたら蹴破っていたかもしれない。  白い  白の  こちらを見て驚きに大きく見開かれた両眼は青かった。 「あんた、誰だ?」  オレの言葉に驚いたのか、さらに大きくなった両眼が綺麗に周りを映してオレ自身が見えた。  よくよく考えれば、いきなり飛び込んできたよそ者のオレに誰?と問いかけられて、好意的に返してくれるはずがないのはわかり切っていたことで…… 「 この人、誰ですか?」  今にもムッスリと音が聞こえそうな程頬を膨らませたこいつは、『雪虫』と名乗った。  薄い銀にも見える金の髪と、青い虹彩、肌は人形のように白い。  昔見た本の中に球体関節人形ってのがあって、あれが人間になったらこんな感じかなって思うくらい、オレと同じ人だとは思えなかった。 「見るの、やめてくれませんか?」  パチリと瞬く睫毛は真っ白で……つい目が行く。  初対面の人間にじろじろ見られて機嫌が悪いのは一目瞭然だったが、どうしても目が離れない。  その視線に耐えかねたのか、雪虫はセキの後ろに隠れてしまった。大きくはないセキの背後に隠れることができるほど、雪虫は小さい。 「雪虫」  セキは平気だけれど、大神は怖いらしい。  名前を呼ばれて飛び上がるその気持ちはよくわかる。 「新しいお前の世話係だ」  なんだと? 「え  セキは?」  背中に縋る雪虫にセキは気まずい顔をしている。  オレと雪虫を見て、申し訳なさそうに項垂れた。 「あの  俺、世話できなくなる時があるから」 「どうして?」  う  と言葉に詰まるが、雪虫はキョトンとした顔でセキを覗き込み、返事を聞くまで離れない雰囲気だ。 「いや、あの   」 「そいつ明日からヒートなんだよ、他人の世話なんかできねぇって」  仕方なく理由を言ってやると、かぁっとセキの顔が一瞬で真っ赤になって視線が大神に移った。  ひやりとした気配に、オレはそちらを見れないままやってしまったと俯いた。感じるのは大神の不機嫌な雰囲気で、睨まれているのがよくわかる。 「君、オメガのヒートのタイミングがわかるのかい?」 「ん?  うん。多分」  オレの周りにいたのはΩ因子持ちのβばかりだったから、確実ではないかもしれないが、確信はある。  βにも発情期のある奴がいて……すごく独特な匂いがするからよくわかる。  熟れきった果実の、触れれば枝から落ちるような甘ったるくて濃い匂い。  それがΩ因子から来るんなら、この匂いは発情期前の匂いに違いない。抑制剤を飲んでるからか控えめだとは思うけれど、それでも匂うのが発情期だ。

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