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雪虫 6

 後日、連れてこられたのは田舎の普通の家だった。  あまりにも普通過ぎて、中に入れと促されても逆に戸惑ったくらいだ。適度に緑もあって、適度に民家もあって、適度に古くも新くもない洋風の家。  けれどオレが連れてこられたとこを見ると、真っ当な場所ではないんだろう。でも逃げたくても両隣をがっちりと大神と先生で固められ、逃げ出せる気がしない。 「えっと   中に何が 」  そろりと尋ねてみるけど大神は答えないのはわかり切っている。そう言うことを話してくれそうな先生に目をやるも、やはり胡散臭そうな笑顔のまま無言だ。 「   オレ、ここでまたあんなことさせられんの?」  あれから少しだけ話を聞いた。  ババァが盗んだ話は置いといて、それより問題だったのが『例のナニ』  つまりオレから出された精液の方で。  人の精子を勝手にナニに使ってんだろうと寒気がしたが、自分達の血筋にαを!って奴は意外と多いそうで……そう言った需要層にあの二人はソレを勝手に売って、大神達の縄張りを荒らしていた  と。  ババァが盗った物より高額とか…… 「君の?ないない!もっといい人材揃ってるから!」  はは!と笑う先生が指差す先には大神がいる。  確かにガタイもいいし、顔だって悪くない、多分 頭も悪くないんだろう。  αらしい威圧感もあるし……まともな勉強もしてないヒョロガリのオレと大神を比べると、言葉を飲み込むしかない。 「先生。悪い冗談はそのくらいに」  先生はこの手の冗談かどうかよくわからないことをよく言ったが、その度に大神の冷ややかすぎる態度は大袈裟すぎる気がする。  まるでαなのを拒否したい感じだ。  医者が押したインターフォンの向こうで、セキとか呼ばれてたΩの声がした。 「ここ、あいつんち?」  鍵が開くのを待つ間に尋ねてみたが、もちろん大神は答えない。 「お待たせしました!」  戸を開けたのはやっぱりセキで。首元には今日も苦しそうなΩ用の首輪が見えた。 「チェーンを掛けろと言っているだろう」 「あっ  ごめんなさい」  インターフォンもあるし、これ以上気をつけてどうするんだとも思うが、αってのは得てして独占欲が強いからな。 「とりあえず中に。どうぞ」  事前に説明が何もなかったせいか身構えたが、中も普通だった。  ただ  何と言うか…… 「この匂いは   」  大神が吸う煙草と同じ臭いと……  あと……  あと、何の匂いだろう? 「   誰がいるんだ」  他人の家をズカズカ歩く程常識がないわけじゃない。  でも、  何で?  セキを追い抜かして進み始めたオレを、先生とセキが止めようと声を出したが振り切った。  振り切ったと言うより、聞こえなかった。

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