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雪虫 5
どっかに捨てられていったあのクソジジィとクソババァが、おぎゃあと産まれたオレに勝手にしたことだ。そのことで責められても、オレに非はない。
……んが、それと実際はαだと言うのは別だ。
「あの…… それがなんかまずいんですか?」
「故意なら、処罰対象かな」
「 」
バース性が政府管理下にあるのは分かるし、不意に街中でαやΩがヒートやラットを起こせば惨事が起こることも理解している。
故に国民のバース性はしっかり管理され、年齢や性徴に合わせて然るべき対処がなされるようになっている。
バース特区と言う目玉を作って、都市一つ丸ごとαやΩを囲い込んでいるとこもあるくらいだ。
それくらい国を挙げて管理されているのがバース性。
けれど何にでも抜け道と言うのはある物で……
現にオレの登録されているバース性はβで、フェロモンの反応値も低いことになっている が、実際……オレの鼻はαやΩ、因子の強いβを敏感に嗅ぎ分ける。
「産まれた 病院の手違いって奴じゃないですか」
何はともあれ、警察の厄介になるのは御免被りたい。
「そう!そう言うこともあるよねー昔は検査の精度も良くなかったしー」
ピラピラっと保険証が指先の間で翻り、消えたり現れたりしてまるで手品を見ているようだった。
器用だ。
「器用でしょ」
顔に出ていたかと、思わず背筋が伸びた。
「うん、大神くん、大丈夫だよ」
煙草を灰皿に投げ込み、最後の紫煙を吐き切ってから大神は小さく頷いた。
「匂い慣れしてるせいかな?これくらいじゃ大丈夫みたい」
「これ……くらい?」
医者は保険証を持っていた側の手首を鼻に近づけると、すん と小さく息を吸い込んだ。
「ここにね、ヒートのオメガのフェロモンをつけておいたんだけど」
「えっ ちょ 」
もしそれに充てられてラットを起こしたらどうするつもりだったんだろう?
試すと言うにはあまりにも悪質で、ムカムカとした苛立ちだけが湧き上がる。
「でもアレがあるから気づかなかったでしょ?」
アレ。
大神が吸っていた独特な匂いのする煙草か?
「気づかないって言うか、アレの匂いがキツくて他になんもわかんないんだけど」
「うん。それならいいよ 大神くん、この子で合格」
胡散臭そうな穏やかな笑いは作り物のようで。
大神とは違ったヤバさを感じた。
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