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雪虫 4

   癖がある風に唇の端歪め、こちらを向かれて落ち着かない。  何をされるのか……正直、ジジィ達にいろいろやらされてきたけれど、本業のやり口はまったく見当がつかなかった。 「君は派手な顔になってるね」 「え、あ。見た目だけです」  鼻は別に折れてないし、口の中は切れてはいるが顎が動かないわけじゃない。  踏みつけられた喉が痛むが、これは時間経過でどうとでもなると分かるのは、経験則からだ。 「そう、じゃあもう一丁いってみようか?」  は?と声が出る前に目の前に突き出された注射器は、拳以上の恐怖をオレに見せつけた。 「はーい。ここ押さえてね」 「……」  注射器に溜まった血液は、鼻血で流した血よりも少量だとは思うけれど、注射器で抜かれるよりは鼻から垂れ流すほうが精神的にはいい。 「注射器嫌いかい?」 「好きな人っています?」 「ぼくは好きな方だけれどね」  好きな奴がここにいた。  お情け程度に鼻から出た血を脱脂綿で拭われて、先生はこちらに背を向けた。 「さーて君は本物かな?偽物かな?」  オレから採った血液をなんか水っぽい物の入った試験管に移して、軽く振っている。  何がなんだかわからなかったが、オレの意志云々でどうにか出来ないことが行われているのは確かなようだ。 「パチモンかどうかって   なんだよ」 「君がアルファか、アルファ因子の強いベータかってことだよ」 「因子?」 「聞いた事ないかい?オメガ、もしくはアルファの特性を持つベータの話」  男女性以外に3つの性別があると習うのは小学生だったか?  正確にはバース性と呼ばれる第二の性は4種類ある。  フェロモンにまったく反応しない無性。  フェロモンに反応しないと言われているβ性。  フェロモンに過剰反応し、過剰に放出し、発情期を持ち男女に関係なく子供を設けることのできるΩ性。  そしてΩのフェロモンに過剰反応し、支配フェロモンを持ち、男女に関係なくΩを孕ませることができるα性。 「ああ、ベータん中にいるオメガやアルファのフェロモンに反応する奴らのことだろ?」 「擬似オメガとか擬似アルファとかも言うよね」  医者はそう言うと血液を入れた試験管をもう一度軽く振った。 「うん、分離はしないね」  シンプルな腕時計を見てから、もう少し様子を見ようか と呟く。 「バース性なんて、生まれた時に調べるだろ?」 「まぁ念のためにね」  念のため  とは、確かにだ。  日本では生まれた際にバース性チェックも義務化されていて、一般には誤魔化すことはできないとされてはいる。 「うん、ここまで待って変化なしなら、しずるくん、君はやっぱりアルファだね」  こちらに突き出された二本の指に挟まれていたのは、バース性が明記されている保険証だ。  そこにはオレの名前と共に、『β』の文字もしっかり刻まれている。 「     ……」  好きで偽っているわけじゃない。

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