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雪虫 3
きつい、日本では馴染みのないような臭いがつんとして……なんだ?
すん と鼻を鳴らす。
「匂いが 消えた」
今までどんな芳香剤だろうと潜り抜けて匂ってきていたαやΩの匂いが消えた。
確かにきつい煙草の臭いはするが……
静まり返った雪の夜の静寂のように、匂いがない。
「なん……」
いつも何かしら香ってきていた物がないと、ソワソワと落ち着かない。あれだけ邪魔っけで、存在することに苛立っていたのに、思わず探そうとしてしまう。
キョロキョロとして鼻を鳴らしているのが可笑しかったのか、大神の唇が歪んでいるのに気がついた。
「一体、あんたなんなんだ」
「ソコは重要じゃあない。要はコレが本物か知りたいだけだ」
コレ とは、さっきセキとか呼ばれてたΩが持っていたモノのことだろう。
「オレのだとしたら、間違いなくナニだよ」
アレは、オレの人生の中でも歴代トップに入るくらい屈辱的な出来事だった。
そんなモノを何にするかはどうでも良かったが、ジジィ達はそれを持って機嫌が良さそうだったのは確かだ。
思い出して不愉快になり、そこに転がっている二人を蹴り飛ばしたくなったが、生憎トドメは刺したくないのでぐっと我慢することにした。
「 先生を呼んでこい。そのゴミは適当に片付けておけ」
大神が溜め息と共に煙を吐き出し、部下の男達に指示すると、誰も逆らうことなく従順に二人を運び出す。
死んでようが生きてようがどうでもいいが、これ以上人様に迷惑はかけないでくれよと、扉の向こうに消えていく足に祈った。
鼻血は何度か袖で擦れば止まり、切れたらしい口の中の傷もそう酷いものじゃなさそうで……
余裕が出てきてしまうと、オレ自身がこれからどうなってしまうのかを考えてブルリと震えた。
「はいはい。せんせーだよ」
ばっと扉から入ってきたスーツ姿の男は、その場に似つかわしくない明るさでそう言うと、臆することなく事務所の中へ入ってきた。
上等な物だと分かるスーツと、柔和そうだが癖のありそうな笑顔だ。
「呼ばれて飛んでくるって、ぼくって健気だよね」
ふぅー……と、紫煙を吐く大神の表情は変わらず、飛び込んできて一人はしゃぐのその年配の男が滑稽に見えた。
大柄な大神の前に立つと小さく見えるが、上背のある男だ。そいつに大神は何やら渡し、チラリと視線をこちらへ向けた。
「先生。頼みますよ」
「ノリが悪いね、大神くん。なんかあったの?」
スーツの上着を脱ぎながら言う男に、大神はきつい視線を向けたが相手には通じなかったようだった。
「セキくんにまたなんか怒られたの?」
「先生。そこの男です」
「やめときなよぉ、彼に逆らうなんて無理なんだからさぁ」
「先生。予定があるのでお早く」
「君ねぇ、あんまり堅苦しいとハゲるよ?」
「先生」
流石に最後の言葉にははっきりと分かる苛立ちが表れていて、軽いやりとりだと油断していたオレは飛び上がることになった。
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