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雪虫 9

 そんなこと、こいつらならよくわかっているはずなのに。 「そこは本人達の自由意志だが」 「自由意志⁉︎」 「雪虫は体が弱くて……体の発達が未熟なせいか、ヒートでもフェロモンがほとんど出てなくて。この臭いがあればフェロモンはまったく感じないはずだから」  確かに、凪いだ状態で何も臭ってこない。  すぐ傍の熟れきった果実みたいな匂いも消えたし、ここに入った時に感じた不思議な匂いもしない。 「でもこの臭い、臭いな」 「お香とお茶があるから、併用してみて」  セキは棚から香炉だと思うものと茶筒を出して並べた。 「普通の抑制剤とかは?飲ませてるんだろ?」 「飲ませてない」 「はぁ?自己防衛しないのかよ」 「副作用がキツ過ぎて……いくら調節しても体調を崩すんだ」  う……と言葉に詰まる。  何を言ってもこんなふうに返事が返るのだろう。諦めてこくりと頷いた。 「食事の時間は  」  インスタント物はダメ、脂っこい物は食べさせない、塩分は計算して、まめにお茶を飲ませること、入浴の際の手伝い、身の回りを常に清潔にしておく。  体調の変化に気をつけること。  何かあれば先生に連絡するように……と、取り上げられた携帯電話の代わりに新しい携帯電話を渡された。  中を覗いてみたけど、電話帳は大神のものとたぶん先生の名前だろう瀬能と書かれた二つだけだった。  番号があっても連絡する気はないが、ジジィとババァは達者でやっているんだろうか?また人様に迷惑かけていないかが気になったが、こちらに迷惑が来ないなら別にいい。 「覚えた?メモとか  」 「いらね」  日常の注意事項なんてわざわざ書いて残すこともない。 「 それから、あんまり太陽に強くないから長い時間日差しに当たらせないようにね」 「はぁ?りょーかい」  あとは簡単に物の場所を教えてもらい、これを使ってと手首から外されたシリコンのブレスレットを渡された。 「何これ」 「この街で使えるタグだよ。これでこの街の中で買い物ができるから、レジのところで翳して使って。使い過ぎないようにね」 「お?」 「この街の話は?」 「ここどこ?」  セキが溜め息を吐く前に大神がふぅーと煙を吐いた。 「ここは『つかたる市』、聞いたことある?」 「バース特区じゃねぇか」 「そうそう、そこの個人管理タグだから、無くしたり、他の人に貸したり、盗まれたりしないようにね」  黒い飾り気のないそれを手首にはめて、ん?と首を捻った。 「今…… なんか」  うっかり手首にはめてしまったが、これ……違法タグだ。 「……」 「このタグではベータってことに  って、君はベータって登録だったね」 「だ 大丈夫なのかコレ」 「堂々としてたらバレないよ」  こう言う所で平然としていられる図太さがオレにはなくて、使う時のことを考えると頭が痛い。  普段アクセサリーも何もつけないせいか、柔らかなそれが手首にあるのが落ち着かず、ぐにぐにと指先で引っ張った。 「急に連れてこられて戸惑うこともあるだろうけど、雪虫のことよろしくね」 「保護者っぽいな」 「だって!弟みたいな感じで  くれぐれも頼んだからね!」  念押しされて頷いた。  と、言うか  急すぎだし説明足りなさすぎだし、オレはこれからどうすればいいのか……    

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