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雪虫 20
つまりこいつらは、部屋で一生懸命頑張ってたオレを見ていた と。
ひー……と声にならない悲鳴が漏れる。
蹲って頭を抱えていると、キツい煙草の臭いが漂って、
「威勢の良い声が出るじゃないか。便所にはついてないから、今度からはそっちでするんだな」
「───っっっ‼︎」
台所からこちらを覗く大神に、何か言い返してやろうかとも思うが言葉が詰まってしまって……
「貧相な物は見せるな」
いっそ瀬能の軽さでからかってくれた方が、笑い話にできて嬉しかった。
知り合いの前で息子スティック扱くとか……トラウマになったらどうしてくれるんだ!
五人分の料理になると二人分の比ではない労力が必要だと分かったのは、瀬能が「お腹ペコペコー」と催促してきたからだった。
セキも手伝ってはくれたけれど、いつも通りのペースで作っていたら、だいぶ遅い時間になった。
泊まって行くと言う三人のために慌てて用意したが、消費量がピンと来なくてもしかしたら少ないかもしれないし、何より雪虫の為に作っているせいか肉気が少なくて……
見た目の勝手な判断だけれど、大神には物足りない食事になりそうだった。
「んー あ、酒とかあった方がいいのか?」
「雪虫のことがあるから先生は飲まないだろうし、大神さんも飲まないから 」
オレが来るまではセキがここにいたからか、どこに何があるって言うのもわかってて動きが早くて助かる。
「え、あの見た目で?下戸?」
「ってわけじゃなくて、付き合い以外はあんまり」
「ふーん……食事の時くらいさぁそれ、外さないの?」
首をちょいちょいと指差してやると、困ったように笑って首を振った。
実用本位の首輪は確かにΩを守ってくれはするだろうけど、やはり息苦しそうなのは否めない。
「噛んで貰えば外せるんじゃないの?セキは大神さんのオメガなんだろ?」
えっ!と声を上げたセキがお茶碗を取り落とし、派手な音が響いた。
「ち が、くて 」
倒れた碗を直そうとしているが、動揺してかカチャカチャと音を立てるばかりだ。
「あ、成人するまで待つとかそんな話だった?余計なこと言ったな」
そうだとしたら意外と常識人だぞ、あの人。
「そうじゃなくて、 噛む気は無いって言われてて 」
「は?」
ヤる事ヤっといてナニ言ってんだ?
「俺、あんまりちゃんとした家庭で育ってなくて やっぱそう言うので、 噛むとか考えられないのかなって」
諦めたように笑うが、大神がそんなことを気にする風には見えない。
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