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雪虫 40
腕の力が抜かれて押さえる力がなくなると、どっと汗が吹き出してくる。なんとも言えないじっとりとした嫌な汗は、拭っても拭ってもべったりと貼り付いてくるような嫌な感じだった。
「 ど いて 」
腕は離れたが、マウントを取られたままと言うのは居心地が悪くてかなわない。
その下から這い出そうと頑張ってみるも、体重をかけられているとも思えないのに抜け出すことができず、ジタバタと手足を動かした。
ふー と溜め息が吐かれる。
「大神さんも瀬能先生も、君たちを悪いようにしようとしてるわけじゃない」
「 」
「まぁ信じられないだろうけど、ちょっと頭冷やしてみたら?」
オレの動きが止まったのを確認して、直江はオレの上から降りた。
枷は無くなったのに、動くことが出来なくて……
直江が出て行く音を聞いても、ぼんやりと天井を見続けた。
何度も、疑問に思ったことだ。
大神達がオレと雪虫にこんなに手をかける、理由。
オレと雪虫のバース性は珍しいが、ここまでするほどじゃない。それこそ、今居るつかたる市はバース性の人間が大勢いる。
雪虫のようにアルビノのΩになると珍しいだろうが、それがこれだけ手をかける理由になるんだろうか?
雪虫の体の弱さを見ていると、大神がソレ目的で囲っている……と言うのも違うだろう。だったらわざわざ、運命の相手であるオレを連れてくる意味がわからない。
『オメガってね、いろんな使い途があるんだって』
ふと思い出したセキの言葉に、『使い途』を考えてみた。
Ωは、繁殖のための性と揶揄される性別で、バース性の中では一番数が少なく、かつ発情期のせいで誰でも誘う可能性があることから差別を受けやすい性だ。
発情すればフェロモンを出してαを呼び寄せる。
「繁殖の 」
Ωを使った資金源と考えるなら、性関係だ。
αとΩを番わせて、子供を産ませる?両親がαとΩだった場合、子供はどちらかの性になる。
いや、それなら一対一の理由がつかない。複数で生活させて、発情期の誘発を使えば乱交だって起こる。その方が率がいい。
αとΩのAVでも撮るのかと言えば、そうでもない。
それならさっさと誘発剤を使ってしまえばいいことだし、童貞を連れてきておままごとのような物を撮るはずもない。
発情期のフェロモンを香水の原料に……なんて、話題が以前に出ていたけれど、それだとフェロモンの少ない雪虫だと意味がない。
「 オメガじゃなくて、オレ?」
精子が高値で売れることは身を持ってわかっている。片親がαで、あれば子供がαである確率が高くなる……と、本で読んだが、でもそれは初っ端に否定された。
要は、αでもできのいいαとそうじゃないαがいる。
一般人に溶け込んでしまうようなオレと、どうやっても人目を引いてしまう大神のようなαと。
「 と、おっさんはベータって言ってたっけ」
オレに言わせると、αとβとΩの匂いの差は歴然で、大神がβと言い張っている意味がわからなかったりするのだけれど。
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