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雪虫 39

「そ んな、あんた達が連れてきたんだろ⁉︎」  勝手に連れてきておいて、今度は手に負えないから引き離される?  冗談じゃない! 「ふざけんなよ!」  怒鳴っても怒っても、瀬能の表情に怯えや申し訳なさが浮かぶことはない。 「いきなり選ばれたからって連れてきて、その気になった途端引き離して    じゃあなんで会わせたんだよ!」  知らなければ何も思わず暮らせていただろうに。  オレの人生ろくじゃもんじゃないと思いながら、過ごせていたはずなのに! 「  目測を誤った、ってところかな。バース遺伝子が利己的なのは感じてたけど、変化が急過ぎて  こんなの本人の体にもよくないはずなのに  」  紙に何やらメモを取りながら、ぶつぶつと呟き始めた瀬能はこちらを見ていない。  何を言っても暖簾に腕押し状態で無駄なようだと、項垂れて足元を見た。 「オレに、できることは?」 「うん?」 「    雪虫にとって、一番いい方法を教えてくれ」  一番いい方法なんて、わかり切ったことを聞くのは、引導を渡して欲しいからだ。  夜、怖がらせたままだったな と。  落ち着いたら傍に行くって約束したのに。  それが気がかりだったけれど……  熱を出して寝込んでいる雪虫に会うことは叶わなくて、オレはまた暴走する前に身一つであの家を出ざるを得なかった。  新しく用意された場所は、小さいけれど一人で住むには十分のアパートで。  他所の場所に来た時に感じる馴染めない感覚に、戸惑って玄関で立ちすくんだ。  そんなオレを直江が奥へと押しやる。 「服や足りないものがあれば、それで適当に買い足しておいて」    直江に指差された手首のタグに目をやるけれど、何が必要かと考えることができない。  少し前まで、確かに雪虫と二人幸せだったはずなのに。 「直江さん   雪虫どうしてる?」  こんなところじゃなくて、あいつの傍で絵本でも読んでやりたいのに…… 「瀬能先生がついてくれてるから。安心して大丈夫かと」 「   じゃあ、あいつの世話は?オレやっぱりもど 」 「大神さんからしばらくは勉学に励むようにとの伝言だよ」 「  ────っ 」  ふざけるな と、叫んだのが言葉になったかはわからない。  直江のスーツの胸ぐらに掴みかかって殴り飛ばされ、振り上げた拳をいなされ足を払われ……  床に頭を押さえつけられて、骨が音を立てて軋んだのが聞こえてやっと、動けないほどしっかりと押さえつけられているのがわかった。  荒く息を吐くオレと違って、直江は涼しげなままだ。 「  一体、どうしたの?」 「  どうした?なんで怒らねぇと思ってんだよ‼︎あんたらはオレをどうしたいんだ!」  握られた腕はピクリとも動かない。  大神と並ぶと細く見えたせいか非力だと勝手に思ってしまっていたが、その力強さは押し返せるものじゃなかった。 「 っそ!離せ!」 「言われて離すならこんな仕事務まらないんだよ。大人しくしてて欲しいんで、ちょっと左腕の一本でも逝っとくかい?」  上から見下ろす薄ら笑いと、急に込められた力に反射的に体が固まる。  逃げなくてはと思うのに、全身に震えがきて力が入らない。 「あ、   っ」 「大神さんは私の比じゃないくらい怖いよ」  口調は和らいだのに、冷え冷えとした目と腕の力はそのままで。 「だから、報告させないでね」  眇められた目に、虚勢の反抗をすることもできたんだろうけど、小さく頷いて返した。

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