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雪虫 67
「 っ、はぁ、もーいいですよ、事実だし」
「諦めがいいな」
「諦めてないけど 今の最優先は雪虫と番うことだから」
今の、オレの一番の望みで、それ以外はどうだっていい。
「 どうしてそう思う?」
「どう言う意味?」
「出会って、そう経ってないのに、お前は人生全てを雪虫の為に使おうとしている。どうしてだ?」
「どうしてって 言われても」
「モルモット扱いをされて だ。お前一人なら、逃げ出すこともできるだろう」
できるか、できないかで言えば、できる。
「 大神さん達が雪虫だけじゃなくて、オレも軟禁しようとしてるのはわかってるよ」
もうつけるのが習慣になった手首のタグを指先で弄った。
「これ、便利だよね、身分証にもなるし、財布にもなるし、発情してるとか、どこを何時何分通ったか記録される。ってことは居場所が全部筒抜けだ」
「そうだな」
「ここに来てから現金持たなくなったよ。つまりつかたる市の外に行こうと思ったら、必要な足のつかない現金がない……公共機関を使わずに逃げることもできるけど、片側が海のここじゃルートが限られてくるだろ」
「そうだな」
「一応現金を作る手段も見つけておいたけど、やっぱり雪虫を置いていけないから」
「そうだな」と続くかと思ったが、煙草を咥え始めた。
見上げるオレの口の中にも一本押し込み、面倒そうに二人分の煙草に火を着けた。
「雪虫を置いてくくらいなら、人体実験だって犬の真似事だってなんだってやってやるよ。オレの下半身切り売りして雪虫が安全で平穏に暮らせるなら好きなだけ見せてやる」
オレの言葉に、大神は無表情だ。
「オレは雪虫さえいればいい」
「 」
「運命の、とか 言うけど、そう言うんじゃなくて、欠けてある物がぴったりハマってるんだよ。そうだな、魂の欠片がぴったりだった 例えとかじゃなくて」
しっくりくる?
呼び合う?
離れがたい?
言葉はなんでもいい。
ただ、離れられないな、と感じる。
「もし、雪虫と離されたら、お前はどうする?」
紫煙を吐きながらの言葉は、どこか弱気に聞こえる。
「 体が半分無くなって、それでも生きてる人間がいたら見てみたいって思うよ」
「そうか」
「会ってからの時間とかじゃない。雪虫なんだよ、オレの片一方は」
指に持っていた煙草を咥えてそろりと吸い込む。
慣れない煙にやはり涙が溢れて、喉の痛みに何度も咳き込んだ。
「 っ、だから、ヤリたくても我慢するし、怪我させたくもない。逆に雪虫には我慢して欲しくないし、雪虫のためならどんなに怪我したって平気だ」
雪虫が笑顔でいてくれるなら、なんだって苦じゃない。
「そうか お前が、思っていたよりもお利口で驚きだ」
「なんっだよそれ!」
むっと言い返してみるが、大神の横顔はこちらを見ずに遠くを見ている。
感傷的なその表情が珍しく、盗み見るようにしてそちらを見た。
「 もし、だ 」
ぽつんと呟かれた言葉は小さくて、横顔を見ていなかったら聞き逃していたかもしれない。
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