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雪虫 66

 どうしてそれを止めたのか、頭で考えてもよくわからなかったけれど、その右手を大神に近づけるのは良くない と、ふと思った。  掴んだ手首は思っていた以上に細くて、オレが少しでも力を入れたら折れてしまうんじゃないかとハラハラする程だった。  けれど、 「   ブレスレットに、何がついてるんですか?」  細いブレスレットを幾つも重ねたそこに目が行く。  何の変哲もない、ただのお洒落の為の物のはずなのに…… 「   ただのディフューザーやん?香水入れてあるんよ?」 「香水じゃない  」  すん  と鼻が鳴る。  甘ったるいこれは……発情期の匂い。  しかも、複数の…… 「何でヒート中のフェロモンなんかつけてるんだ」 「    ……」  掴んでいたはずの腕をくるりと回された次の瞬間、指の間にするりと冷たい指先が入り込んできた。 「え  」  貝繋ぎにされた手が思いの外冷たくて、なのにしっとりとしていて……ぞわりと背筋に震えが走る。 「企業秘密なんよ?他に教えたらあかんよ?」 「ぇ、え?」 「お相手にちょっとだけ興奮してもらえたら、うちもよく濡れてええんよ、ボクがちょっとフェロモンくれたらそれでええん」  一瞬で間を詰められ、大神に絡みついていた手はいつの間にかオレの首にかかり、絡まるように髪を撫でている。 「ぇっ」 「やぁーらかい髪やん?気持ちええなぁ」  血の上った頭皮を冷たい指先が撫でていく。  落ち着かない、  落ち着かない、  落ち着かない、  心の中の警鐘のままに頭に添えられた手を払い、距離を取りたくて後ずさった。 「逃げなよ?フェロモンくれんの?」  薄い唇が笑みの形の動くのが 怖い。 「  童貞を怖がらせるな」 「ええー?それが楽しいに、イケズ!」  オレは、揶揄われただけなのか?  混ざったフェロモンの臭いのせいでムズムズする鼻を擦り、瀬能をチラリと見た。  助けてくれと視線を送ったのを、瀬能は正しく受け止めてくれたようだ。 「じゃあまず、身長と体重から測らせてもらっていいかな?」 「えぇ?公表したりせぇへん?うち恥ずかしんダメなん」 「しないよ。体調を見る為の物だからね」 「ほならええわ」  先程のやり取りが全て流されてしまった居心地の悪さはあったけれど、あのブレスレットのことをこれ以上尋ねても、こちらが何を質問していいのか分かっていない段階でどうしようもない。  ブレスレットが気になるけれど、あれはΩのフェロモンばかりだったから雪虫達に何かあるとは思えない。  行為に入るための、テクニックの一つなんだろうか? 「難しい顔してどうしたんだ、童貞」 「端々につけるのブームなんですか?非童貞」 「羨ましいのか、童貞」  ぐぬぬ……と言葉が詰まる。  何を言っても余裕で返されるのが目に見えるようだ。

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