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花はいっぱい 1
日本人口の全体の約70%が無性で、約29.7%がβで残りの0.2%くらいがα、そして一番数の少ないΩは全体の0.1%程だ。
さっくり言うと、αはΩの倍の人口だ。
αΩ間で番になるとして、 余るよね?
「どう考えても、余るよね!アルファ!」
「ぼ、僕に言われても……」
「おかしいよね!比率!」
そう詰め寄ってもどうしようも無いのはわかっている。わかってはいるけれど、それとこれは別。
それでなくても少ないΩなのに、どうしてαの喜蝶 はまたΩと付き合っているのか……
高校設置のカフェテラスで飲むアイスコーヒーはいつも以上に苦く感じる。それもこれも、目の前で喜蝶とその新しい恋人がイチャイチャしてるからだ。
「あーん!」
「あー 」
「そっちのアイスも一口ちょうだい?」
「えー!どうしよっかなぁ」
どうとでもすればいいと思う。
もっとも、バニラアイスが何よりも好きな喜蝶が、例え一口でもあげるとは思えないけど。
多分、少しでもあげることがあるとしたら、それはよっぽど本気の時だけ。
「やっぱこれはダメー」
そう言う喜蝶は相手がムッとしたのにも気付いてないのかもしれない。ただ、それに気付けるのならば、数えきれない数の元恋人たちはいないはず。
αらしい外見は人を惹きつける。
長い手足も、整った顔も、ちょっと色が薄めの髪も瞳も、αやΩ、因子持ちのβが数多くいるバース性特区である『つかたる市』の中でも目立つほどだった。
華やかな彼に、寄ってくるΩは多い。
「薫 ……もう行こうよ」
「六華 」
この友人は珍しい喜蝶に靡かないΩだ。
だから友人をしてられるのだと思う。
白くなるまで握り締めた手に、温かい六華の手が重なる。
「ね?」
Ωらしい庇護欲を掻き立てられる外見の六華、オレもこんな風ならもうちょっと喜蝶に振り向いて貰えたのかもしれない。
オレみたいなΩ因子持ちのβは損ばかりだ。
人を惹きつける外見があるわけでもなく、αを虜に出来るほどフェロモンも強くなく、なのに発情期はあるし、でもΩじゃないから噛まれても番になれない……
一番……ツマラナイ性だ。
六華の促しに従ってテラスか出ようとした所で、後ろから派手なビンタの音がした。振り返らなくても誰が誰を引っ叩いたのか、よくわかっている。
その後、喜蝶が腰にタックルしてくるのも、よくよくわかっている。
「 ───まぁったふられたぁぁぁぁ‼︎」
大きな喜蝶にしがみつかれるとオレじゃ支えきれなくて、六華を巻き込む形で倒れ込んだ。
オレと喜蝶の下敷きになった六華が奇妙な声を上げて潰れて、オレはその上で蛙を潰したような悲鳴を上げた。唯一一番上の喜蝶だけが、クッションがあったせいか無事だった。
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