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花はいっぱい 2

 足首に巻かれた包帯を見て、思わず側に座っていた喜蝶に蹴りを入れた。 「あいたっ!」 「痛いはこっちのセリフだって!」  実際その衝撃でずきりと痛みが走った。  包帯だけじゃない足首の膨らみに、泣きそうになって項垂れる。 「六華にも謝った?」 「あー、うん」 「確認とるよ?」 「これから行きます」  一番下敷きにされたのに、六華は怪我がなかったからいいよって笑って許してくれて……ホントいい子。  それに比べて喜蝶の駄々っ子のような態度は…… 「当分俺がちゃんと世話するからさぁ、機嫌直してよ」  「ね?」と首を傾げられてお願いされてしまうと……この顔に弱いオレは許さざるを得なくなる。  ほんっとに、ムカつくくらい男前!  ちょっとチャラそうなとこさえなくなれば、たぶん奴隷にしてくださいって目の前で腹見せて転がってるかもしれない。 「謝ってきたら、ね」  それでも六華にしたことはしたことだから、「もういいよー」と言いたくなる心を押さえつけてそう言ったんだけど、やっぱり微妙そうな顔をしている。  喜蝶と六華は  ちょっと?あんまり?お世辞にも?  違うな、全然気が合わないせいだろう。  基本人当たりが良くて、誰にでもヘラヘラっと合わせることのできる喜蝶にしては珍しいことだった。  綺麗な形の眉が悲しげに歪んで、「どうしても謝らなきゃダメ?」と覗き込んでくる。この男の厄介なところは、自分の顔の良さを知っていて、オレがその顔面にどうしようもないくらい惚れ込んでるんだってわかっているところ! 「   オレから、喜蝶が謝ってたって、連絡入れとく。これならいいだろ?」 「やった!薫、だーい好き!」  喜蝶はそうやって、ただのノリで言ってしまえる言葉でも、オレにはただただ重くて  重くて   適当に言っているだけの言葉に押し潰されそうだ。 「とりあえず、保健室からの移動はおんぶでいいとして、帰りはどうするかな」  おんぶ!  これはちょっと、足を捻挫しても良かったかもしれない!  あ、でも…… 「やっぱり付き添いは六華に頼むよ」 「えっなんで⁉︎俺の方が力あるし、支えるにはちょうどいいって!」  自分より六華を取るのか裏切り者ー!と言う言葉が顔に書かれている気がする。 「オレ、もう直ぐヒートだから、喜蝶には良くないだろ?」  キョトンとした一拍の間を置き、ぷくくっと喜蝶が吹き出した。 「ヒートって言っても全然フェロモン出ないだろー?なーにオメガみたいなこと言ってるの!」  笑われて……オレは…… 「オレだって多少は出るんだもん」 「ぜーんぜん!あの時のオメガの匂いってスゴイんだぁ、薫のとは比較にならないって!」  腹を抱えて笑う喜蝶に、何かを言い返す気力がなかった。 「    もういいよ」  βだけれども発情期があって、でも本物のΩには全然敵わないんだろう。  造花は、造花でしかなくて、蝶々は止まりにはこない……なんて、よくわかってるのに。 「えー?なんで?」 「明後日くらいには始まるから、明日からお休みもらう」  さすがバース特区と言うだけあって、ΩやΩ因子が強くて発情期のある生徒にはそう言った休みが貰える。  もちろんその休みの間はネットでの授業参加することもできて、そう言った部分は手厚くカバーされていたりして苦労はない。 「え  いつも休まないだろ?」 「薬は副作用もキツくて辛いし、足もこんなだし」  いつもそのきつい薬を飲んででも学校に出ていたのは……休むと喜蝶が不貞腐れるから。だから、飲み込むのを体が拒否しそうになる薬も、しっかり飲んで登校していた。

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