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花はいっぱい 3

 喜蝶は全然とは言うけれど、オレの体のことを踏まえて、医者からはもしもを考えて休むようにとずっと言われてもいた。  ずっと、無理して登校してた。 「俺が送り迎えするっつってんだろ?」 「んー……」  ほら、もう不機嫌だ。  喜蝶のそんな顔が見たくなくて今までは無理も聞いてたけど、 「ちょっと辛いかな」  そう思うようになってしまって……  喜蝶が他の人を好きになるのを、隣で見続けるのは、もう   しんどい、かな。 「学校つまらなくなるだろー?」 「うーん  薬もちょっと合わなくなってて、ホント厳しいんだよね」  不満そうに縁が薄く色づく茶色い瞳がこちらを睨む。  綺麗な切れ長の目は大好きだけれど、 「ごめんね」  オレの謝罪なんて、どこまで聞こえてるのかわかんないんだけど……  オレこと『薫』と『喜蝶』はつかたる市の二世代目で幼馴染み、……で、ご主人さまと下僕かな?  たぶん、周りからはそう思われてる。 「  今日、お休みだったね」  部屋に上がって貰った六華が心配そうにこちらを見るが、足以外は健康そのもので、やっぱり学校に行けば良かったかなぁと思ったり。  六華が持ってきてくれた学校からのプリントを受け取り、授業のノートを見せてもらう。几帳面な字で書かれたノートは性格そのままで、見てて微笑ましい。 「足の具合、やっぱり良くない?」 「んー……うん、あと、そろそろヒートの時期だから」 「ヒート……」  六華は口の中でポツンと呟く。 「そう言えば、六華はヒートは軽いの?休んでるの見たことないけど?」 「うん、薬が合ったみたい」 「オレもそれに替えてみようかな」 「ごめっ  あの、市販品じゃないから」  ちょっと焦った感じが気にかかったけど、六華のお父さんはバース性の研究所勤めだったはずだから、その伝手で貰った物かもしれない。  それなら無理強いするのも悪いし、この話はこれでおしまい。 「あ、そうだ、喜蝶がごめんって」 「僕じゃなくて、薫には言ったの?ごめんって」  大きな瞳がきっとなって、こう言う時の六華はどきっとするくらい男らしく見える時がある。  もっとも、普段は可愛い一択だけど。 「喜蝶が謝る訳ないって」  オレが謝ることはあっても、あの喜蝶から「ごめんなさい」とか言われたら、びっくりしすぎて倒れるかもしれない。  六華は答えが分かっていたのか、しょんぼりと肩を落としてクルクルとジュースのストローを弄ぶ。 「怪我までさせられて、さすがにどうかと思うよ」  ぷぅっと膨らんだほっぺたは、オレの代わりに怒ってくれているんだろう。  それが可愛くて、嬉しくて、華奢な六華を抱き締めた。 「ありがと  」 「ん  薫が泣かなければ、僕はそれでいいんだよ」  照れ臭そうに咳払いをして、六華はそろりとオレの背に手を伸ばしてきた。  喜蝶よりは長くないけれど、六華はこうやっていつもオレに寄り添ってくれて、喜蝶のことで落ち込んだり泣きそうになった時には、オレのことを心配してくれる。 「オレ、ホント友達に恵まれてるよー」 「友達……」 「うん?」  コテン……と項垂れて、六華の体重が肩にかかってきた。

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