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花はいっぱい 19

 図書室の角で蹲っているところに、「喜蝶は帰ったよ」と言いに来てくれた六華に小さく笑う。 「ありがと」 「…………、俺 余計なことしてる?」  オレの隣にちょこんと座り込むと、両膝を引き寄せて溜め息を吐いた。 「薫を悲しませたいわけじゃないんだ」 「うん   悲しんでるわけじゃないよ。ただ……こうやって避けるようになって、オレってずっと喜蝶の傍にいたんだなって痛感しちゃって」  二人の出会いなんて覚えていない。  家が隣同士だから、公園デビューする前から一緒にいた。  喜蝶の両親が泊まりがけの仕事も多いから、よくうちに泊まっていたし、連むのが自然だった。  昔は、十七歳になったらバース性のパートナーになろうと言い合ったりもしていたのに。 「ずっと一緒にいるって思ってたんだけどなぁ」  いつからだったっけ?  喜蝶が運命の相手を探すようになったのは……?  確か、授業で必要だからと一緒に母子手帳を見てて……オレがβ性だって分かった時だったかな。  βはαの運命にはなれないから。  ずっと一緒に居ようって言ってくれたこともあったんだけど、小さな頃の思いつきのような言葉をずっと信じてた。 「    って、ダメだダメだダメだ!気分落ちてる!」 「どっか気分転換する?」  遊びに行こうと提案されて、それなら と昨日のサービス券を取り出した。 「ここ 行かない?」  小さなメモの切れ端を見せると、六華は複雑そうな顔をして肩を落とした。 「そんな見え見えの下心に飛びつくの?」 「見え見えって そんなんじゃないって 」  と、思いたかったけど、やっぱりそう言うことなんだろうか?  リピーター作りたかったからじゃないかな?とも思ってたんだけど。 「ただ ミックスジュース美味しかったから」 「   コーヒーも美味しかったよ」  むぅっと口を尖らせて六華はじっとりとオレを睨む。 「年上が好き?」 「えっ」 「やっぱり望みないのかなぁ」 「あの、あの  」  グイグイ行ったことも来られたこともないせいか、反応に困ってしまっておろおろとしていると、小さな手がそっと重ねられた。  温かなそれにほっとする。 「気長に行くよ。そのうち俺は……背が高くなって、力持ちになって、経済力もあって、かっこよくなって、薫が抱いてって飛びついてくるような奴になる予定だから」 「なにそれ」  ふふ と笑いが漏れた。 「未来予想!」 「じゃあまず牛乳飲まなきゃ」 「う  それは勘弁して」  しょんぼりとしてしまった六華の手を握り返して、オレ達はやっぱり昨日のお店『 la fluorite』へ行こうと決めた。  オレ達がドアから顔を覗かせると、懐っこい笑みで出迎えてくれて……  手招かれて空いていたカウンターへと進むけれど、六華はやっぱりちょっと拗ねていた。 「いらっしゃい」 「えと  ミックスジュースが美味しかったから  」 「ありがとうございます!」  眼鏡の奥の柔らかい瞳に釣られて微笑み返し、昨日と同じミックスジュースとコーヒーを頼んだ。

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