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花はいっぱい 37

 白くて柔らかそうな頬なのに、今は腫れているのがわかるくらい膨らんでいて…… 「叱られた」  そう言って膨れて見せるが、頬が痛いのか盛大に顔をしかめて項垂れてしまった。 「喜蝶の具合、聞いた?」 「    うん」 「俺 やらかしちゃった」  いつも微笑んでいて欲しい顔がクシャクシャとなって、涙が溢れて頬を伝う。  いつも泣くのはオレで、慰められるのもオレの役割なのだけど、今回はオレが六華を抱きしめた。  鳥のような感じの頼りない、ちょっと力を込めるとあっと言う間に息が止まっちゃうんじゃないかなって思うくらい細い体に手を回すと、おずおずと背中に手が回って縋り付いてきた。 「喜蝶  大丈夫かなっ、俺っ  カッとなってやっちゃって……」 「大丈夫!お母さんが様子見てきて、元気そうって言ってたもん、ね?」  背中を宥めるようにポンポンと叩くことが、オレが今できる精一杯。 「そうだ!忠尚さんがお見舞いにって、飲み物とお菓子持たせてくれたんだ!」  ひょいっと紙袋を上げると、六華は誰だ?とちょっと悩む顔をしたけど、紙袋に書かれている『 la fluorite』の文字でピンときたみたいだった。 「須玖里さんのこと名前で  呼んでるの?」  ほとんどが口の中で消えるような呟きだったのに、忠尚のことだからかはっきりとオレの耳にまで届いた問いかけに、ピッと背筋が伸びた。 「う……うん」  視線を逸らしてしまうのはやましいところがあるってわかってるから。  六華がオレにちゃんと向き合ってくれているのに、何も答えずに返事を先延ばしにしちゃっているから。  顔色が変わったのを悟られたのか小さく息を飲む音がして、窺うような視線が一瞬オレを見てから彷徨い、最後に足元に降りて止まる。 「  そ、か」  まだ涙の雫をつけたままだった睫毛が震えて、ゆっくりと閉じられた。  袖に隠れて見えないけれど、拳を握り締めているのが震える肩からよくわかる。  項垂れたせいか、開かれた目から一筋涙が伝い落ちて、六華は慌ててそれを拭って笑った。後から後から溢れてくる涙は水晶のように透明で、ぽろぽろと転がるものだから宝石が落ちているのかと勘違いしそうになる。 「俺も、好きだったのに ぃ   」  精一杯の笑みが崩れて、しゃがみこんでしまった六華に駆け寄るけれど、なんと声をかけていいのかわからずにただ傍に座り込むことしかできない。  蹲って声を上げずに泣く六華に、原因である自分がなんと言えば慰めになるのかなんて、見当もつかなかった。

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