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花はいっぱい 39

 バニラ風味のカフェオレと、バニラ味のアイスと、それからプレーンクッキー。  すべて喜蝶の好きな物だけれど、果物とかの方が良かったかな?  こう言う場合のお見舞いに持っていく品と言うのが分からなくて、とりあえず好物を買ってきてみたけれど……  チャイムを鳴らして、少し待つと微かに玄関扉が開いた。 「具合  どう?」 「…………」  ぼそぼそ と何か言われたけれど、門扉からは聞こえなくて、勝手知ったる でオレは門を開けて駆け寄った。  肋骨にヒビがと言っていたから、大きい声が出ないのかもしれない。 「喜蝶?熱とかは ────っ!」  ぐっと腕を引かれて、踏ん張る間もなく玄関に引きずり込まれてしまって……  小さく呻く喜蝶に壁に押さえつけられて、どっと心臓が縮み上がった。 「ど、どうしたの 」 「っ  い  」 「痛い?無茶しちゃダメだって!」 「臭いっ!」  怒鳴られて呼吸が止まった。  臭い? 「なんで他の奴の臭いがしてんだよ!」 「なに  言って  」 「臭い‼」  首筋に顔を埋められてスンスンと匂いを嗅がれ…… 「や、 」 「俺の匂いだけだったのに!」  髪を鷲掴まれてその中に鼻先を入れられて……  無遠慮に押さえつけられて匂いを嗅がれて、突然のことにパニックになって暴れるも喜蝶は腕の力を緩めてはくれない。  制服越しに喜蝶の体温が移り始めて、じりじりとその熱が広まるのが怖くて、思い切りオレを抑える胸板に拳を叩きつけた。 「  っ」  普段だったらオレが殴っても何の痛みも感じないんだろうけど、今はそんなことはないはずだ。  小さく呻いて体が離れた隙に玄関扉に縋りついて、音のしない後ろを振り返った。 「ぁ  ご、ごめんっ」  框に蹲ったまま動かない姿に胸がひやりと冷たくなる。 「き ちょ  ?」  痛んだ?  殴ったところが悪かった?  ざぁっと血の気の引く音が聞こえた気がして、よろけるように傍に膝をついて伏せられた顔を覗き込んだ。 「痛むっ?病院にい  っ」  くるりと視界がひっくり返って、床に叩きつけられたカフェオレが潰れる音がした。  背中にひやりとした床の感触と、やはり同じように温度を感じさせない冷たい喜蝶の眼差しがオレの上に降ってきて、蛇に睨まれた蛙のように、体が動かない。 「あ  」  微かに上がった口角が、どこも痛いところなんかないとオレに教えて…… 「 し んぱいしたのに、笑えない冗談止めて  」 「笑えない冗談なのはそっちだろ?なんでそんな臭いことになってんの?」 「くさ  っさっきから臭い臭いって、失礼だろ!」  むっとして精一杯怒った声で言うのに、喜蝶には通じてないようだった。  長い指が髪の隙間に差し込まれて、頭皮を緩く擦り上げるようにして撫でる。ぞわぞわとした悪寒のような鳥肌が立つような感覚に首を逸らすも、その手は執拗に追いかけてきてオレを撫でまわす。  首筋に、  肩に、  耳に、  やめて と繰り返すのにその手は止まらず、制服の裾を乱して脇腹にまで侵入してくる。 「あったけぇな」 「やっ 」  怪我をしている喜蝶の方が不利なはずなのに、押しのけてもびくともせず、されるがままに体中を弄られていく。

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