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狼の枷 1

 弾かれた手をどうしようもできずに引っ込めることが、大神には珍しいことだと直江は知っていた。 「  ち、近寄るなっ」  威嚇する猫  いや、仔猫だなと、直江は思いながら用意した服をチェストの上に置く。 「着替えはここに置いておきます」 「ああ」 「手伝いますか?」  堪えきれなかった涙で頬を濡らしながら、怯えた表情で二人を睨む姿は、誘拐同然で連れ込まれて散々蹂躙された人間にしては、順当な反応だ。  身体中の痛みと、痣に見えるほどに大量につけられたキスマークと喉につけられた首輪にショックを受けて、自分の身に起こったことを思い出して更にショックを受けて……  睨む目の力が弱まると、体が小刻みに震え出したのが見て取れた。 「出てろ」 「用があれば呼んでください」  忠信の部下はそう言ってあっさりと出ていく。  一対ニが一対一になったと言うのに、あかの表情は逆に絶望に染まるようにくしゃくしゃと歪み、今にも叫び出しそうだった。 「  覚えているな?」  鋭い双眸は和らぐことはなく、あかを遠慮なしに睨みつける。 「ぁ  あ、あぁ っ」  震える唇からは小さな音しか出ない。  幾筋も涙の跡をつけた頬を拭おうと再び大神が手を差し出し  ────パシン  小気味良い拒絶の音と、「触らないで」と拒否の言葉が続く。 「    」 「  あな  あん、たが、何を考えてるか、わ かんないけどっ   これ以上   ──ひっ」  言葉を詰まらせたあかは、小さな悲鳴と共に背を退け反らせ、青い顔を下へと向けた。  大神から身を守るために握り締めていた掛け布団をそろりとずらし、自分の股からこぽこぽと伝い落ちるソレに息を飲んだ。  体の最奥から溢れるソレは、熱に浮かされて散々求めた目の前の牡のモノだった。 「ゃ  いやだ   」  逃げることができると言うわけでもないのに、あかは大袈裟な程に首を振って身を捩る。  けれど、ダブルとは言え小さなベッドの上であかには逃げ場はなく、身を捩ったために更に溢れ出るソレを茫然と見やるしかない。 「なん、で  なんで俺    」 「お前は、ヒートだった」  「ヒー……  ?」と呟き、あかは顔を歪めながら首を振る。 「違う‼︎俺はオメガじゃない!」 「オメガだ」  違う  と小さく呟いて、あかはベッドの上から転がり落ちた。 「おい!」 「違う!違う!  かえ 帰る!かえ  っ」  足の力が入らず、生まれたての動物のようによろよろと這うあかの方へ大神は足を向けた。  広い部屋も大神の体からしてみれば狭いもので、あっさりとあかを捕まえた大神はその細い腰を抱え上げてベッドへと連れ戻す。  宙を舞った足に伝う白濁を眇め見て、一瞬眉間の皺を深くした。  自分の出したモノで汚れたあか。  昏い愉悦に口角が自然と上がった。 「帰る?」  大きくて武骨な手があかの白くて柔らかい内太腿を撫で上げ、自身が吐き出した汚れを拭った。 「どこに?」  指先で弄んだソレを、あかの鼻先に擦り付ける。 「い  やだ、やめ  」 「よく嗅げ」  青臭い独特な異臭。  いやいやと首を振って嫌がるも、呼吸をしないわけにもいかず、圧倒的な体格差に押さえ込まれたまま、あかは観念して息を吸い込んだ。 「ぅ   あ   」  キツい牡の臭い。  誤魔化すことも何も出来ず、あかはその臭いを肺の奥まで吸い込まざるを得なかった。

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