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狼の枷 3

 あかの出したソレは、青臭いはずなのに……  ひどく誘う匂いだ。  花が虫を呼ぶように、惹きつけられてソレに舌を這わせる。 「  甘い」 「あま    ?」  精液独特の臭みが鼻をつくはずなのに、どこか甘い匂いがする。 「  にぉ、い?」  少し体を動かしただけでも敏感に拾い上げるのか、ぶるりと震えて見せるも達した衝撃でどこかぼんやりとしている。  くたりと体を投げ出しているあかの傍らに、青い残骸を見つけて大神は眉を顰めた。あかが引っ掻いた際に、貼付剤が剥がれ落ちたのを思い出した。  瀬能が躍起になって作っている抑制剤の試作だった。  気休めと思い貼ってはいたが…… 「  匂いが」  すん  と鼻を鳴らすようにして息を吸い込めば、あかの体から出される甘い匂いが更にはっきりと感じられて、大神はむっと唇を引き結んだ。  一吸い毎にどっと脈が強く打ち出すのが分かる。  発汗と、それから呼吸が早くなり、くらりと揺れた視界に咄嗟に手をついた。 「  っ」  小さく呻いて、あかから体を離そうとするのが一苦労だった。  体は簡単に動かすことができたのに、脳がそれを拒否して……  まだこのナカに居たいと、  まだ堪能したいと、  まだ貪りたいと、  あかのナカから自身を引き抜いた時に感じたのは寂寥感と、なんとも言えない罪悪感。  体が離れることに、全身で拒否を表しているのがわかった。 「これは  ラットか」  自嘲気味の言葉の端に大神にしては珍しい焦りを滲ませ、辛うじて残った意志で煙草に手を伸ばそうと立ち上がった。 「    っ」  普段ならばそんなことは絶対にない。  首に絡み付く腕に引っ張られ、崩れるようにして倒れ込む。辛うじてあかの上に倒れ込むことだけは避けたが、逆にそれはあかが跨る機会を与えてしまったようだった。  上気した顔でこちらを見下ろすあかの淫靡さに、大神の喉が鳴る。 「  くれ る、て  ィった」  自らソコを大神に擦り付け、あかはぶるりと身を震わす。  それだけで、更に濃度を増した匂いが零れ落ちる。 「  っ」  甘い匂いだった。  頭の芯が痺れてグズグズになるような。  食らいたくなるような、美味そうな匂い。  甘い  甘い  艶然と笑うあかに見下ろされたのが最後の記憶だった。  脚に走った痛みに咄嗟に腕を振るうと、悲鳴と共に何かがなぎ倒される音がした。  大きな音と、腕に何か触れた感触、それから急激に血の気が引くような気持ちの悪さに体が硬直したのを感じて、大神はぼんやりとした頭を振った。  はっきりしないまま悲鳴の上がった方を見やると、直江がチェストの前で蹲って恨めしそうな顔でこちらを見ている。 「    正気に戻りました?」 「    」 「彼、もう意識ないですよ」  彼  と言われ、ベッドに両手を投げ出して気を失っているあかを見下ろした。  ぐっしょりと汗に濡れて乱れた髪、体中についた歯形とキスマーク。  華奢な体の半身は、未だに大神が抱え込んでいた。 「    」 「薬効いてきました?」 「  ああ」 「一旦離れることはできますか?」 「いやだ」  その言葉は大神自身が意外だったらしい。  はっと口を押さえた後、眉間に深く皺を寄せた。 「瘤で抜けん」  汗の滴る額を乱暴に拭い、気を失ってぐったりとしているあかを抱きかかえてゆさ と体を揺する。  小さく体を硬直させた後、ゆるゆると吐き出す息に合わせて腰を押し付け、射精し終えるまで緩く緩く呼吸を繰り返す。 「直江」 「はい」 「新しい首輪を用意しろ」 「わかりました」  ちらりと直江の視線の動いた先、あかの首に嵌められた実用本位の頑丈な首輪がひしゃげてはっきりと歯形が付いている。  さながら獣に襲われたようだ とは笑えないと、直江は内心でごちる。 「それ、人の顎の力で歪む物なんですか?」  特に項を守る後ろ側には金属が入っており、あなたの命も守ります とか言う触れ込みじゃなかったかと、それを購入した際の説明を思い出そうと、直江は記憶を探る。 「さっさと新しいのを持ってこい」 「あ、すみません」  時折眉根が寄るのは未だに射精が続いているからだ。  部屋を出て行く直江を待ってから、大神はゆっくりと身を引いた。ナカに入っていた長大なモノに引きずられるようにしてあかの体が動き、小さな呻き声が上がる。

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