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狼の枷 23

親ですら「その他」のように興味なく接していた自身を見てくれる存在に、あかの胸がちりちりと灼けるように痛む。 「こ  ち、見て」 「なんだ」  問い掛ければ、全ての意識をこちらに向けて尋ね返してくれる。  初めての発情でぐずぐずになった思考でも、欲しがるままに大神が快楽を与えてくれた事は覚えていた。甘えるままに、欲しい物を貰えた快感は脳を痺れさせて、もう思考は溶けて消えかけていた。  この人は、自分の欲しい物を与えてくれる人だと、本能が囁きかける。 「 ゎ かってる、くせに  」  甘やかしてもらえる相手に、思考を手放したあかはだだっ子のようにぐずり始めた。 「たす  たすけ、 てっ」  叫んだ拍子に涙が頬を伝った。 「くるし の、 助けてぇ   !」  大神に連れてこられた時ですら、毅然と言い返していた姿はそこには欠片もなく…… 「   こんなことしたくない  」  けれど、力の入らない手は伸びて大神のベルトを外そうと躍起だった。 「 なのに、  あんたが   嫌なのにあんたがっ!きもち ぃいの、っおしえ  ふ、ぅ    オメガなんかになりたくない!ヒートにも!  知りたく、なかった  気持ちぃの    っ」  けれどスーツを乱して、擦り寄る。 「あんたが  教える からっ!」  その叫びが、今あかが出せる一番大きな声だったんだろう、叫び終えてからは喉がひゅーひゅーと鳴って話の形をとる事が出来なかった。  あかの頼りない手がぽす と小さく大神を叩いた。力の籠らないそれに絶望しか生まれず、その逞しい胸板に縋りついて嗚咽を上げる。 「  そうだな。お前がオメガなのも、ヒートなのも、気持ちがいい事を知っているのも全て俺が悪い」  あやすように言い、大神はあかを抱え上げる。 「俺が悪い」  太い皮の厚い指が目尻の雫を拭って頬を撫でた。 「だから泣くな」 「 この お腹の奥がきゅうってなるの、ら なん とかしてっ  」 「ああ、助けてやる」  しゃくり上げてしがみつくあかに見えないように、大神は深く眉間に皺を寄せた。その小さな苦悩の瞬間を見ずに、あかは大神にキスを強請って舌先で硬そうな唇を舐める。 「待て、火が危ないだろう」 「ぅ、やら 」  唇を舐め、とろりとした表情で自分から離れようとする腕に縋り付く。 「火傷するぞ」 「あっつい の?  熱いの、はコッチ ぃ」  こちらを見る目はすでに平常心の欠片もなく、大神は手早く煙草を消して灰皿へと投げ入れた。  その間にもあかの手が服を乱して中へ潜り込もうとしてくる。    消えていく煙草の煙の代わりに、あかから垂れ流される濃い匂いに大神は眉間に皺を寄せた。 「濃い な」 「ぅん? な に   」 「匂いが……」  ちゅうっと音を立ててあかが首筋に吸い付いて来る。

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