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狼の枷 32

「おま え  」 「大神さんが練習させてくれたから!ああ言うのって一回幾らなんだろ?月にどれだけ返せばいい?それとも週かな?もしかして日払いの方がいい?」  ざらりと舌で舐め上げられるような、そんな悪寒が止まらない。  大神に金を返す為だと分かってはいても、他の男に触れられると考えた段階で吐き気がこみ上げる程の嫌悪感が湧く。 「生で、ナカに出させた方がお金貰えるんでしょ?」 「いい加減にしろっ!」  どっと喉を襲った衝撃に言葉が詰まる。  大神の大きな手で握られた首は、無骨な首輪がなければあっさりとあかの首を潰していたかもしれない。  顎の下でぎしぎしと悲鳴のような音を立てられて、嫌な汗が脇を流れて行くのを感じた。 「ふざけるな  ふざけるな っ‼」 「  っ ぅ」  乱暴に引き寄せられ、よろけるようにその胸の中に抱き締められる。  熱い皮膚と、  繰り返す鼓動と、  肌の匂い、  大神の、匂い…… 「まともな世界に返すから、ここで手放すんだ」 「お がみ  さ  」  きつく抱き締められて、言葉どころか呼吸もままならない。  微かに吸い込める空気を喘ぐように吸いながら、あかはそこでじっとしていた。 「あか」  時折、大神が酷く甘いような、何とも言えない感情を込めたような声であかの名前を呼ぶ。  その声で呼ばれるとこの上もない程幸せな気分になった。 「お前に、過去のしがらみはもうない。借金もないし、男にだらしない母もいない、自分の人生を自分の思うように立て直す事が出来る」 「でも、そこに大神さんはいないんだろ?」 「お前の人生だからな」  こうして今、混じっているのに?と、あかは不安な表情を向けた。 「お前だって、警戒しただろう?そんな人間の傍にいて、どうする」 「ちが  」 「何も違わない。俺は警戒されるべき人間で、隙を見せてはいけない人間だ」  大きな手があかの背を撫でる。  それだけで堪らない安心感で胸の内が満たされて、幸せで、嬉しくて……  腕の中に居れば何の憂いもなくなる。 「俺に隙を見せるな」  そう言って大神はあかの頭に頬を寄せた。  髪を梳き、指の間をくすぐっていく感触や、含まれた空気の甘さを感じてきつく目を瞑る。 「丸呑みにするぞ」  かし と、あかが首輪を引っ掻く。 「いいよ、頭から  骨も残さないで  」  伸び上がるようにして口付ける。  硬そうに見えて、思いの外柔らかい頑固そうな唇にちゅっと吸い付く。押し退けられる事も抵抗もないまま、あかは小さな舌を差し入れる。 「  ぁ」  大神の咥内吸われた舌に、硬い歯が当たる。  舌を、咬み千切られる……  ぞっとするのにそれが妙に嬉しくて、こちらを睨みつける双眸をうっとりと見つめ返す。  きっと大神になら、食われても嬉しいとしか思えないのだろうと胸が震えた。

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