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狼の枷 36

「それから、お前は特別じゃない。他の奴らと扱いは変わらない。いいな?」 「う うん」 「はい だ」  注意を受けて、あかは小さく「はい」と返してはにかんだ。  見上げて笑顔を零すあかのこめかみに、大神はそっと唇を寄せて頬を擦り付けた。 「厳しくいく。耐えられないようならここに戻れ」 「戻りません!大神さんにしがみついて行きます!」  そう言ってキスをせがんでくるあかに応えてやりながら、大神はあかを片腕で抱え上げた。  すぐ後ろで口も挟めず、注意も出来ず、ただ見守るしかできなかった瀬能と直江が窺う視線を投げ掛ける。 「  ────あかはこちらで引き取ります」 「だからそう言った急な事は困るんだってー!手続きとか、処理とかさぁ」 「直江」 「分かりました。行っておきます」  隙あらばキスをしようとするあかを避けながら、大神は怒ったふりをしている瀬能に向き直った。 「先生。見舞いの件ですか行けますか?」 「……じゃあその間あか君はこちらで預かるよ」  腕の中を示されて、大神は反射的に腕に力を込めた。 「いえ  会わせておこうと思います」 「……そう」  タブレットを取り出して何事かを調べ、電話を掛けて何事かを聞いているようだ。  あかはしがみつく事の出来た大神の首からそろそろと顔を上げて、遥か下になってしまった瀬能の頭を見下ろした。 「誰か入院してる ?あっ、んですか?」 「ああ、お前には会わせておこうと思う」  間近で見る大神の双眸が鋭い物から陰鬱な陰を見せる物に変わり、あかは背筋に冷たい物を感じてしがみつく力を強くした。  同じ敷地内ではあったけれど、そこに行くには一旦外に出ねばならず、研究所内だと言うのにその建物の前には警備員が常駐していた。  堅硬さを隠さない玄関を潜ると、認証式の扉が前後に二か所見る事が出来た。 「ここ は?」 「病棟だ」  受付で身分証明、許可証、先程瀬能から許可を貰った事を告げ、照会を待つ間指定の箇所に立って待つようにと指示される。 「びょ、病院って、こう言う物なんですか?」 「いや、ここが特別なだけだ」  そう返事を返すけれど、大神はあかを見ない。  直江がそこに居たならば、考え事をしているから話しかけないようにと注意をしただろうが、残念ながらここには居ない為にあかの疑問を止める人間がいなかった。 「普通はナースステーションで尋ねるんですよね?」 「   ああ」 「花!お見舞いには花がいるんじゃ!?」 「  いらん」 「大神さん  ?あっ付いてこない方が良かったんじゃ!」  カタン と扉の開く音がする。 『どうぞ、お進みください』  マイクの音声の促しに従って歩き出した大神の後にあかが続くが、一度も自分を見ない大神の緊張を感じ取ってか、口数が少なくなっていく。 「え と   変な感じがしますね」 「   帰ったら全て説明する。騒ぎ立てずに大人しくしていろ」  清潔だけれど、  冷たい、  そんな印象の廊下だった。

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