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ひざまずかせてキス 7

 大神があかを連れ込んだ事務所は元々ほぼ使用してなかった。  大場組……いや、表向きは大場商会の本社が近いと言うこともあるし、あかの新聞配達の通り道だったと言う事を除けば、立地的にも建物的にも旨味のない場所だった。  わざわざ朝の数分、新聞配達の姿を見下ろす為だけにこの場所を用意するのだから、大神はもう少し素直になってもいいとオレは思っている。  傍に控える者として、社長、もしくは神鬼組を引っ張っていく立場の若頭には、後継ぎを儲けて貰いたいと思うのは至極真っ当な事だろう。  あかがそれを叶えてはくれないかと、ぼんやりと考えながら片付けなければならない書類を捲っていると、かち と小さく扉の開く音がした。 「   直江。これ。頼まれてた、奴」  ノックをしろといつも言っているし、大神にも言われているはずなのにこいつがそう言った事を行った事がないのを見ると、わざとそうしないのだろう。  いきなり扉を開けて入ってきた不審者をぎろりと睨みつけた。 「何 どうして、睨む?」 「ノックしろ、せめて声をかけろ。勝手に防犯を解除して入ってくるんじゃない!何のためのシステムだ」  三白眼に胡乱な表情を乗せて、黒犬は訳がわからないと言った表情でこちらを見つめ返した。  黒いパーカーに黒いズボン、整えられていない髪に血色の悪い肌。  明らかに、不審者そのもの。  けれど情報そのものを扱わせたら彼ほど頼りになる人間はいない。 「必要?」 「礼儀だろ」 「必要、かな?」  ああ、これは聞く気のない返事だ。 「言ってた 日時の、データは、全部 消した」 「  見なかったよな?」 「見なかった。と、言うか、見ても 言わない」  オレの胸ほどまでしかない身長の、小さな黒犬はそう言ってオレに携帯電話を手渡してきた。  確かに、彼の口は堅いだろう。  その為の『黒犬』だ。 「助かった、ありがとう」 「同じ、時間。ここの 監視カメラデータも、消されてた けど。あれは 直江が やったの?違ったら、大問題 だけど」  ひっと小さく声を上げた拍子に、手の中から携帯電話が転がり落ちた。  何か疚しい事があると言っているようなものだった。やってしまったと青くなっているオレを覗き込んで、いつも無表情か不機嫌か胡乱かの表情をしている顔が小さく笑った。 「あそこの ラーメン、美味しい よね?」 「…………どれを注文すればいい?」  何を考えているか分からない顔に口元にだけ笑みを乗せ、黒犬は「全部乗せ」と嬉しそうに答えた。

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