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ひざまずかせてキス 24
あかと話す時は柔和な雰囲気なのに、オレ達を前にした際の変わりようは二重人格じゃないのかと疑いたくなる程だ。
「 この子が?」
「SNoWよ」
「そうか。小さいな」
「成長が、ゆっくりなのよ」
うたの噛み締めた唇が小刻みに震えているのは、悔しさに叫び出したいのを堪えているからだろう。
「……人を っオメガをっ!何だと思ってるのよっ 」
大声を辛うじて押さえ込んだ声は甲高く掠れて、うまくいかない呼吸のようだった。
「うたくん、落ち着こうか」
「 はい。すみません」
瀬能に言われ、はっと口を押さえたうたは申し訳なさそうにしょんぼりと肩を落とす。
寄る辺ない風が哀れで、肩を抱いて慰めてやりたくもなったが、それはうたが嫌がるだろう。
「それで?大神くんはあかくんに会っていくのかい?」
「どうしてですか?」
「どうしてって 」
「こちらに預けたオメガに会いに来た事などないでしょう」
そうばっさりと切り捨て、大神は用は済んだとばかりに踵を返す。
瀬能が追いつくのを待っている間、視線が何かを探して揺れていたのは指摘するべきなのかどうなのか……
別に隔てる何かがあるわけじゃなし、素直になればいいのにと毎度の感想を思うが、言った所で素直になるとも思えない。
やがて視線が一定方向に定まったので、その先を見てみると、住居棟と以前に説明された事のある建物の方角だった。
保護されたΩ達のいる……
「 SNoWの今後の事について先生と話してくる。お前は 少し寝てろ」
「え ……はい」
同席したかったのにそう言われてしまうと逆らう事も出来ず、瀬能が案内をしてくれた仮眠室で横になる事にした。
皺にならないようにと、とりあえずスーツをハンガーに掛けてから、仮眠ベッドにしては上等な寝台へと横たわる。
大神の秘書として傍にいる事を許して貰っているのにこの体たらくが情けなくて、静まり返った見慣れない部屋にいるせいか、心の柔らかい場所がじくじくとした痛みを訴えているように思う。
また運転もあるし、少し眠ろう と思うも頭の中は大神について行けず、運転では道を間違え、ボディーガードとしても役に立たない情けない自分への罵声ばかりで、眠りたい気持ちとは裏腹にどんどん目は冴えて行く。
「 あいつなら 」
ラッキー!昼寝昼寝! とでも言って、横になった途端イビキをかいて眠り始めるのかもしれない。
剃り残しの多い髭を気にすることもなく、初めての場所でも大の字になって……
アナがあったからとりあえず突っ込んだ なんて、馬鹿みたいな事をする男だ。
きっと、そんな風に寝てしまう。
それに凭れながら寝たら、温かくて少しは寝やすいかもしれない と考える頃には、瞼がとろりと落ちていた。
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