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ひざまずかせてキス 25
鼻歌が聞こえる。
なんだったか、洋楽だ。
グランジな、ざらつくようなリズムが耳に残る……
うつら と目を開けると、見事な波打つハニーブロンドとその下から完璧としか言いようのない細いくびれが見て取れた。
「起きた?」
ふふ と笑いながら振り返ると、どこかマリリンモンローに面影の似た綺麗な顔がこちらを向いて、真っ赤で印象的な形の唇を歪めて笑った。
顔に、見覚えはない。
けれど、通りすぎる人間の目を片っ端から釘付けにするんじゃなかろうかと思わせる、優美な肉体の曲線には見覚えがあった。
砂時計を人にしたら、きっと……と思わせる体つきだ。
「 ───すがるか?帰ってきてたのか」
「そう!やっと終わったの。報告がひと段落したから休ませて貰おうかなって思って来たんだけど」
この部屋に横になれる場所はこのベッドしかない。
「ああ、もっと早く起こしてくれればよかったのに。すまなかったな」
「いいの。でも他にもっとちゃんと謝らないといけない事あるよね?」
「 は?」
目を瞬かせた次の瞬間、テーブルの傍にいたはずのすがるがすぐ目の前に移動していた。
鼻先が触れそうな……そんな距離から彼女の青い瞳がオレを射抜く。
「黒犬に変な物食べさせたでしょ!」
「っ それ、は 」
「やっぱりあんただった!」
しまった!これも引っかけだったと思ってももう遅く、緩めていた首元をぎゅうっと掴み上げられて体がよろめいた。
何を聞かれても沈黙を……それが黒犬なのに……
自爆してしまった!
「うちの黒犬はお腹下しやすいの!油こってりとかぜーーーーったい駄目に決まってるでしょ!」
「でもたまには 」
「その、たまには、で お腹痛くして困ってるんでしょ?黒犬がよ⁉なんでそんな事できる訳⁉信じらんないんだけど!第一何が入ってるか分からないのに出前で頼んだものを、毒見もさせずに食べさせたんでしょう?信じらんない!しかも付属のささくれがあるかもしれない割り箸を使わせるとか何考えてるの?その頭は飾りで、中にはおからかそこいらの泥でも詰まってて、私が散々やめてねって言っといた事を堂々とするんだから、あなたもっかい死んでやり直してきた方がいいよ!」
喋っている間になんとか胸倉を離させ、とりあえず誠意のお辞儀で言葉が止まるのを待ち、「ごめんさい!」と大声で返す。
そうすると、一瞬びっくりしたすがるの言葉が止まるから、後はひたすらひたすら謝罪。
赤い唇が動き出す前に、精一杯の速さで言葉を紡いで、反論させないようにしないといけない。
「本当に申し訳なかった。黒犬には頼み事をしたからその報酬代わりにと思ったんだ!そしたら、リャ っ 」
ラーメンが……と言おうとしたところで頬を噛んだ!
普段怪我なんてするところじゃないだけに、慣れない痛みに口を押えて小さく呻いた。
「ちょ 大丈夫なの? あなたの言い分も分かるけどね、黒犬をこれ以上働かせないでくれる⁉︎あの子がどれだけ働き者か分かってさせてるんだとしたらあなた人間としてどうかしてると 」
早口で捲し立てられて、最後の方はもう何がなんだか……口も怪我してしまったし、黙ってこれを聞き続けるしかないのだろうか?
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