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ひざまずかせてキス 34

 咥えられ、奥には指を入れられ、どうにも逃げれずに小さく身を捩ってはみたが、焼け石に水でそれが打開策となる事はない。  逆に当たる部分が変わってしまって、自分からイイトコロへ当てた形となってしまった。 「放せ  って!」  乱れた相良の髪を引っ張ってはみても、それに抵抗するようにきつく吸われると、膝が震えてもう駄目だった。  筋張った腕に支えられた体はいつ崩れてもおかしくない状態で、湧き上がる射精感に相良に縋りつく。 「 ぅ   アっ  」  細切れに出る声を飲み込もうとするのに、その度に舌が敏感な場所を虐める様に舐め上げ、悔しいのに抵抗らしい抵抗もないまま小さく体を震わせた。 「  ────っ」  肩に立てた爪が赤い筋を残して行くのを目で追いながら、ずるずると床へと倒れ込んだ。 「やっぱうまいってもんじゃないな」  眉間に皺を寄せている癖に、唇の端に垂れた白濁の液まで舐め取るのだから意味が分からない。  思わず険しい顔になって見上げていたんだろう、こちらを見下ろす相良の表情が曇って見えた。 「そんな顔すんなよ?ちゃんと取れたし」  その手に持たれた液体に塗れてどろどろのUSBメモリに、やはり嫌悪感しか感じずにぐっと奥歯を噛み締める。  相良を見ずに無言のまま何枚もティッシュを重ねてそれを受け取ると、そのまま包んでスーツの内ポケットへと入れ、ふぅ と息を吐いた。  とりあえず、これに関してだけは回収する事が出来たのだと、安堵感から力が抜けてしまいそうだった。  動かないオレに、小さく「なぁ」と相良が呼びかける声がしたが、返事を返さずにスーツに額をつけて俯いた。 「  なぁ」 「   」 「なぁってば」 「 なんだ」 「怒ってる?」  いきなり異物を入れられた事に対して怒っているかと聞かれたら、怒ってはいない。 「   いや。」  小さいあんな物はまだ可愛らしい物だと言ったら、この男は調子に乗るだろうか? 「  ごめ 。ちょっと脅かすつもりだっただけで……」 「もういい」  もう一度深く息を吐いて相良へと向き直ると、綺麗な筋肉のついた体を小さく縮込めて座っている。 「さぁ、気が済んだだろ?出て行ってくれ」 「え  やっぱ、つれない!怒ってるんだ!」 「怒ってないって言った!」 「だって情事後だろ?ほら!腕枕でピロートークとか   」  掌を突き出してその言葉を遮り、乱雑に脱ぎ捨てられた相良の服を投げつけた。 「オレはこれから仕事に戻る」 「今から⁉」  もそもそと皺だらけのシャツを被りながら驚く相良の動きは大袈裟で、どこまでが本気なのか計りかねる。 「めっちゃブラック!送っていこーか?最後イジワルしたし  体だるいだろー?」  相良がぺちぺちと叩く派手なヘルメットに目を遣り、それから机の上の黒革の鞄に視線を遣った。 「────いや、いい。  さぁ、出て行け」 「あっ や じゃあ、じゃさ?せめて一緒に出よーや?」 「はぁ?なんで一緒なんだ。馬鹿らしい」  嫌そうな顔をしてやれば、傷ついたような顔をしてこちらを見てくる。  それがまるで捨て犬のような雰囲気で、こちらが悪い気になってくるから不思議だ。  多分、この男のこう言う所なんだろう…… 「    シャワーを浴びてくる。そこにお座りして、他には何も触るな。いいな?」 「じっと『待て』しとくよ」  犬のお座りの様にしゃがんだ相良は、オレを見上げて「ワン!」と一声鳴いて見せた。 「  ────この駄犬が」  口の中の呟きは相良には届かないだろう。

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