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ひざまずかせてキス 39
夜見ても古い建物だと思ったが、日の光の下で見るそれは更にボロボロに見えて、階段は踏むのを躊躇う程錆の浸食で壊れかけだ。
足音が響くからか、オレが二階に到着するタイミングで相良が扉を開けて手招いた。
「ナーオちゃん、久しぶり」
へらりとした顔は変わりなく、相変わらず気楽そうに見える。
「ああ」
「唐揚げ作っといたんだぁ!まだ温かいよ!俺ってカイガイシイいい奥さんだな!」
「誰が奥さんだ、ふざけんな」
「あ、奥さんはナオちゃんか」
イラっとして狭い玄関で立ち止まった相良を押し退けて中へと入れば、相も変わらない散らかった部屋が目に入ってきた。
「人が来るって分かってるなら片付けておけ」
「えー。だってー」
科を作って誤魔化そうとする相良を睨み、紙袋の中身を取り出してベッドの向こうの梁に引っかけた。
「このハンガーはオレのだからな?勝手に使うなよ」
「すごーい!ハンガー持参とか、奥さんじゃーん」
「毎回毎回、スーツを皺だらけにされたら敵わないからな」
スーツの上着を掛けて、相良がその辺りの物を足で端に避けながら出してきた折り畳みの小さなローテーブルの前に座った。
ぐしゃぐしゃと端に寄せられていく服を見ながら、寄せるのではなく片付けると言う頭が働かないのだろうかと顔をしかめる。
「皿 皿。どこかなぁ」
「部屋に散らかってるとか言わないだろうな!」
「えー……それは 」
そう言ってはっきりとした返事もないまま、相良はゴソゴソし始めてしまい、明確は言葉は聞けなかった。
周りを見渡して……どこかに皿が埋まっているのかもしれないと思うとぞっとする。
「一つ一つ畳めよ、引き出しはあるんだから 」
ベッドの下の収納がそうかと目星をつけて開けてみるが、がらんとしている。試しに壁際に置いてあった三段ボックスも開けてみたが同様に空だった。
直すのが……面倒だった?
ちらりと見た台所は先程まで油物を作っていたなんて感じさせない程片付けられているのに、部屋の方は一面服がひっくり返されている。
まだ戻ってこない相良の様子を見て、溜め息を吐いてから傍の服を引き寄せて手早く畳む。
シャツ、
パンツ、
靴下、
長袖も半袖もごちゃまぜで、掴む度に季節の違う服が引っ張り出される。
「なんで夏冬が一緒になってるんだっ」
仕方なく、それを一枚一枚畳んでは種類毎に分けて片付けて行く、引き出しに入れるのは自分でさせた方がいいだろうと思い、畳んで分ける所までしかしていないが、それだけでこの部屋は随分と片付く。
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