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ひざまずかせてキス 40

 服を翻す度に臭いがちらちらとして、視界はチラつくし鼻はムズムズするしで、今にもくしゃみが出そうだと鼻を押さえる。  生ごみはさすがに捨ててあるのか見当たらなかったが、消臭剤や制汗スプレーのごみが纏まって出てきた時には溜め息が出た。 「ごみは捨てておけよっ‼」 「いやぁ~曜日間違えちゃって」  可愛い子ぶりっ子して誤魔化そうとするこの大柄な男を見上げて盛大に顔をしかめてやれば、流石にバツが悪いのか肩を落として皿に乗せた唐揚げをローテーブルに置いた。 「俺の腕は店のおっちゃんのお墨付きだからな!期待して食べろよ!」  「はいはい」と気のない返事を返し、箸も出されなかったので指で一つ摘まんで口に放り込んだ。 「熱くない⁉」 「いい感じだ」  日本風ではなく、中華風のその唐揚げは仄温かく柔らかくて、美味しかった。 「愛情いっぱい入れてあるから~美味しいっしょ?」 「   ……ああ」  肯定してやると、そんな言葉が返ってくるとは思っていなかったのか、相良の顔がぱぁっと笑顔になり、いつものしまりのないヘラりとした顔をして嬉しそうに身を揺すっている。 「隣座ってもいい?」  今までぐいぐいと距離を詰めてきていた筈なのに、まるで別人のようにオレに伺いを立ててからそろそろと隣に腰を降ろす。  それも、なぜだか少し間のある隣だった。 「なんでそんな遠い?」 「えっ   遠いって言うか……ナオちゃんが怖がるといけないから」  「怖い?」  相良は少しだけ神妙そうな顔になって、自分の首筋を摩った。  それだけで、相良が前回首を噛んだ事を後悔しているのだと分かって……オレはネクタイを緩めてシャツのボタンを外し、ぐぃっと相良が見やすいように襟元を寛げた。 「もう、小さな痕しか残ってない」 「  そ、か」 「大した怪我でもないんだ、長く残る物じゃない、気にするな」  テーブルに置かれた拳にぎゅっと力が入る。 「そうじゃない!」 「 っ⁉」 「消えるってことは、ナオちゃんが俺の物じゃないってことだろ⁉」  怒り出した意味が分からずぽかんとしていたのか、唐揚げの油でぬるつく指を掴まれても逃げる事が出来なかった。 「俺の物って証拠が消えちゃうってことだろ」 「何を馬鹿な事を   ベータと無性で証拠とかどうこうおかしな事を言うな」  掴まれた手を離させようと振ってはみるが、相良と言う男はそれくらいでどうにかなるような軟弱な男ではなく。 「もう一回つけさせて  」 「だから!ベータと無性にそんなの関係なくて!」  蹴って距離を取ろうとするも、近過ぎて上手く力の入らない足では押し返せず、結局は相良にのし掛かられて床に倒れる事になった。  多少服を畳んで避けたとは言え、ごちゃごちゃと物の散らかる床が目に入ってどっと力が抜けるのを感じる。 「  はぁ……なぁホント、なんとかならないのか?」  畳みそびれた靴下の片方を背中にのしかかって来る相良に向けて放り投げた。

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