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ひざまずかせてキス 48
「副作用が落ち着くまで で、いいから」
右手を上げると、相良はそれを両手で握り込み、今にも泣きそうな顔で「ごめん ごめん 」と繰り返す。
「気にすんな、ベータってのは、どうしても割に合わない性だから、しょうがない」
「そんな 」
「ベータはアルファほど優秀じゃないし、なのにフェロモンに振り回される事もあるし、だからって運命の相手はいないし。なのに因子によってはベータの薬が効かないからアルファのを使わないといけないし。でもアルファのは副作用がきついし」
一気に文句を言うと、またすぅっと落ちるような気持ちの悪さがして、小さく呻いた。
「俺 は、あんたたちは、何でもさらっとこなして、なんの問題もないんだと思ってた」
捨てられた犬のような顔でこちらを覗き込む相良の腕は温かくて、そっとそれにこめかみを寄せた。
「そんな訳あるか。アルファとオメガに挟まれて、ベータの研究なんか全然進んでないし、お陰でベータ用の抑制剤の開発はされてないんだぞ、ホント 損な性別だな」
「ナオちゃん」
ちゅっと指に相良の唇が触れた。
「俺はナオちゃんが運命のいないベータで良かったと思う」
こいつの唇はいつもしっとりしていて、触れると気持ち良くて……中に唾液があったり舌があったりすると分かっているのに、それでも吸い付かずにはいられないくらい魅力的で……
こちらを見る真剣な両目の中に、牡を見つけてはっとした。
「噛ませて」
以前の傷はもう癒えてしまっていて……
「突然何を 言っただろう?それはアルファとオメガにしかないんだって」
唇と違うざらりとした指先が項を撫ぜて、髪をくすぐってからオレを押さえつけた。
「それでも、ナオちゃんを俺のにしたい」
「責任を感じているのか?別に何かあるわけじゃなし、そんな必要はない」
「責任じゃないって。責任ならナオちゃんにとって欲しいくらい」
「何を言っている」
急に動けないオレは押さえ込まれると身動ぎをするしかなくて、抵抗できないままに相良が覆い被さってくるのを受け入れるしかなかった。
ぐっと頸に歯の押し当てられる感触がして……
ザワザワと体が落ち着かない。
「止めろっ無駄な事をするな!」
「分かんないよ?」
首の後ろでごり と鈍い音がした時、オレはどうしてだかほっとして……
首の後ろに当てたタオルははたして綺麗だったのかと思ったが、何はともあれ止血しなくてはいけない。
「ふざけんなよ!普通に傷害だからな!」
「でも、でも、でも」
「うるさい」
腰に縋りついてくる相良を振り払おうとするが、やはり離す事が出来ずに終わった。
「アルファが首を噛むってのが、ちょっと分かってきたかも」
「分かった所で意味なんかないだろう!」
「いやぁあるって!自分を刻みつけたいとか思うよ?あとこうやって知らなことを知って行って、相手のこと、理解したいじゃーん?」
引き寄せられ、ぎゅうっと抱き締められた腕から逃げれないのは分かっているから、無駄な事はしない。
「オレは」
「うん?」
「オレも 理解したいと思ってたよ」
キョトンとした顔を見て深い溜め息を吐く。
ゆっくりと相良を押し退けると、何かを察したのか抵抗らしい抵抗もないままに手が離れて、そのままつまらなさそうに後ろに下がる。
「お前が何を考えてるのか、さっぱりだ」
そう言って手早くスーツを着込み、血の付いたタオルで床に転がったままになっていたピンク色の小さな水筒を包んだ。
「今日はもう帰る」
「送ってこーか?どうせこの後仕事なんだろー?ナオちゃんの会社ちょっとブラック過ぎない?」
手の中のタオルの塊に目を遣り、それから相良を見た。
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