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ひざまずかせてキス 47

「ナオちゃんって、ヒショ?」 「あ?」 「今度オフィスでヤッてみな  ぶっ」 「人の名刺まで勝手に!オレの荷物に触るな!」 「いや、だって、名刺入れが転がり落ちてたんだって!」  手の中の名刺をむしり取ろうとするも、相良はかわい子ぶるように科を作って「一枚ちょーだい」と強請ってきた。 「駄目だ」 「なんでー?」 「明日、朝一番の商談で沢山使うから」 「えっクスリの取引で名刺とか使うの?」  掴める襟首があれば掴み上げているだろうに裸のままではどこも掴む事はできなくて、仕方なくまた下の毛を掴んで引っ張る。 「ちょー……っ‼ぃっ 何っ ホントまだらになるからやめてっ」 「普通に真っ当な仕事の話だ」 「真っ当なって、どこと取引すんの?」  じく……と痛む注射痕をさすりながら、「スオンワークス……」と言いかけて口を押えた。 「 っ」 「スオンって海外と取引してーって有名なとこ?すっげぇ!」 「ちが  違う!聞かなかった事にしろ!」 「えー?なんで?あんないい所と取引って自慢できるって~!」  黙らない相良を蹴り飛ばし、怒鳴りつけてやろうと立ち上がったが、急に視界が暗くなってふらついた。  突然よろめいてすがる物を探そうとしたオレに、相良はさっと手を差し出してくれる。 「どうした⁉」 「  っ 抑制剤の副作用だ」  すぅっと地面に落ちるような感覚がして視界が暗くなる。  貧血の様に体の力が入らなくなり、仕方なく相良に寄り掛かった。 「すぐに良くなる  少しだけ、このままで……」 「横になっか?」 「   ん」  Ωフェロモンがきつかったせいか、薬の反応も酷いようでどうにも体がうまく動かず、相良の促しのままにベッドに横になった。 「水とかいる?」 「いや 」 「おでこ冷やすか?体拭いたりとか  」 「相良」  床に散らばる物の中からタオルを探そうとし始めた相良を呼び止め、「大人しくしていろ」と言って傍に座らせた。 「顔色……悪いな  」 「副作用だから、一時の話だ」 「あの足に打った奴だろ?こんな酷いの?」 「アルファ用の物だからな、ベータにはきついな」  普段持っている物はα用の物で、βの自分には合わないから副作用がきついのは百も承知だ。  けれど、α因子の強いβであるオレには普通のβの薬は効かなくて…… 「   そんなの 知らなくて。何かできること あるか ?」  しょんぼりとした顔は、自分が面白半分で出したフェロモンがこんな事になるなんて……と反省している顔だ。 「冷たい物とかっ」 「   手、握ってくれないか?」  怪訝な顔は、「そんなこと?」と不満そうだ。

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