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教えて!先生っ 27
「気を引きたくて……」
「カッコイイ声の掛け方なんか知らないし」
縁から零れて落ちそうな涙がチラチラと光を反射して揺れる。
春の木漏れ日のような光の涙は純粋で、出鳳と凰珀の言っていることが本心なのだとよくわかる。
分かるだけに……そんな安易に使っていい物じゃない。
「お前らは、人の気持ちを無視して性行為に及んで、あまつさえ首まで噛んだんだ」
ぱたり ぱたり と足元に落ちた涙が床に広がって、光を反射しなくなる。
さっきまで、あれ程キラキラしていたのに、今はただの染みでしかなくて。
それが二人に挟まれて幸せだと思っていたあの瞬間と、今を表しているようで……いたたまれなくなって唇を噛んで視界から外す。
「今 は、冷静に話す事が出来ないから 帰ってくれ」
努めて平静になるように絞り出した声は思いの外硬質で、二人は更に怯えたように体を縮込めてしまった。
緩めないようにしっかりと睨み続けると、反論を諦めたのかどちらともなく頷き合っている。
「 せんせ、手当だけ させて?」
「そしたら、もう帰るよ」
右手の傷を見下ろすと、赤い筋が走っている。けれど先程あんなに溢れていた血は止まっていたので、溢れた血液程は大げさな傷ではないようだった。
とっとと失せろ
その言葉を叩きつける事だってできたのに、オレは小さく頷いて二人に向かって手を差し出した。
蒼白な顔で、何とかと言う風に言葉を出していた双子たちが、少し救われたような顔をしてこちらに駆け寄ってくる。
「そこ!ガラスを踏むから!」
躊躇なくこちらに突進してくる二人に言うと、そこで初めて床に散らばるガラスに気付いたと言うびっくり顔をして、それからそろりとガラスを飛び越えてオレの元までやってきた。
「せんせー優しいね」
「違う、ケガ人が増えたら大事だから」
甘い顔を少しも出さないように慎重に怒りの顔の下に隠してから、ホウキとチリトリの場所を教えた。
特に話し合ったりもしていないはずなのに、片方は片付け、片方は手当てとさっと分かれて動き始める姿は、こんなことがなければ素直にすごいと思えたのに……
分担で揉めたりしないのか、一つの物を取り合った時はどうするのか、どこまで行動が一緒なのか、好奇心のままに聞きたいことはいろいろあったけれど、もうそんなことはできないだろう。
「ちゃんとお医者様に診てもらってね」
「大した傷じゃない」
「だめ、ガラス入ってるとダメだから」
大袈裟だと返そうとしたオレに、二人の視線が向く。
「せんせーだけの体じゃないんだから!」
「赤ちゃんのためにもきちんと診てもらって!」
ぐっと言葉が詰まって、オレはただ頷き返す事しかできなかった。
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