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教えて!先生っ 30
「ん せんせーがちゃんと、病院行くかなって」
「心配だったからずっと見てたんだよ」
「病院行ったならそれでいいかなって思ってたんだけど」
「ぜんぜん家に帰らないしさ」
でもでも だからだから と二人はオレを挟んだままいろいろと言い訳を言ってはいるが、二人に抱きしめられたオレはそれどころじゃなくて……
温くて、
気持ち良くて、
なんでこんなに幸せを感じるんだろう?
「せんせ、お酒飲みたいのかもだけど、今日は帰ろ?」
「お酒飲まないで、もう一回俺たちに口説かせて?」
左右から同じ声に囁かれて、これが錯覚なのかもしれないと思ったりしないわけでもなかったけれど。
真摯な目に見つめられて懇願されて逆らえるわけもなく。
「「お願い」」
少しざらつくような甘えた声で言われると、逆らいようがなくなってこくりと小さく頷いてしまった。
騒ぐなら他に行け とばかりにヒタに追い出されて、結局どこにも行けなくて自分の家に戻ってきたけれど……
でも、早計だった かな?
「ケガは?」
「縫った?」
「いや、大丈夫、 これも、大袈裟なくらいで」
ガラスのなくなったテレビラックを見て、二人には怖い思いをさせてしまったんだと思うと申し訳なくて、少し俯いでごめんと謝った。
「 でも、な?人の好意を力づくで無理矢理捻じ曲げるのは、悪いことだってのは分かるな?」
胸をチクっと、虚無感が突き刺す。
「オレたちバース性を持ってる人間はどうしても、フェロモンだとかそう言った本能的な物の影響が強い。それを長い歴史の中でどうするか、どうしたらより良くなれるか、より人間らしく生きて行けるかを話し合ったり、考えたり、争ったり、悩んだりしてどう律すればいいかを試行錯誤してきた 」
不安そうな双子は、それでもオレの言葉に耳を傾けてくれていて、感情に任せて追い出さずに年長者として諭してやるべきだったんじゃないかと、後悔に胸が痛んだ。
凰珀と出鳳がいたずらに悪質なことをする子たちではないと、分かっていたのに……
「 禁止されたり、忌避されるにはそれなりの理由や道徳的物事がきちんとある。本来、誘引フェロモンは、ラットを起こしたアルファからオメガの体を守るためのものだと言われている」
我を忘れて暴走したαが無茶をしてΩの体を傷つけないよう、発情を促進させ受け入れ易くさせるためのものだ。
「分かるな?お前たちは守りに使うべきものを悪用したんだ」
不貞腐れるでもない、耳を傾けていないわけでもない、二人は真剣にオレの言葉に耳を傾けて、震えそうになっている唇をきゅっと噛み締めている。
「ヒートの時にそれを使われると、自分の気持ちが自分自身でも分からなくなる。な?オレが二人に抱いた好意が嘘かもしれない、それでいいのか?」
ぐ と息の詰まる気配と、どちらともなく流した涙がぱたぱたと床を打つ音が静かに響いて……
「ごめんなさい 嘘、は いやだ」
「俺たちが好きなのは、本当だから 許して」
黙っていればαらしい貫禄を持っている二人が、しおしおと項垂れて泣いている様が、本当はダメなんだろうけど、でも でも でも……可愛く思えてしまって。
参ったな と思ってももう遅かった。
二人を引き寄せて屈ませて、黒いしなやかな髪を力いっぱい撫でまわす。
「 わっ」
「な、なにっ」
お揃いで鼻の頭を赤くして涙目できょとんとこちらを見上げてくる姿に、それでもやっぱり愛おしいと思うから。
「もう一回、ちゃんと口説き直してくれるんだっけ?」
二人してはっとすると、慌ててオレから距離を取って乱れた服を直し、オレがぐちゃぐちゃにした髪をお互いにチェックし合ってから頷き合う。
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