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青い正しい夢を見る 10

 幾度目かの診察の際、にやにやと笑った医者がポツンと呟いた。 「   ああ、柔らかいな」 「……え?」  ぐっと差し込まれた指が内臓を圧迫する感覚はいつまでも慣れなくて、診察の度に吐きそうになるのを堪える為に噛み締めた唇から声が漏れる。  柔らかい? 「発情が近い か、自分で弄ってるんじゃないか?」 「そん  」  こんな気持ちの悪い事を?  何を言っているんだろう と言う内心が顔に出ていたのか、医者に睨まれて慌てて唇を引き結ぶ。 「随分と小慣れた風だが 」  医者の差し入れた指が二本、ぐち と音を立てて内壁を抉る。 「  っ、  何も してない、です」  ぐいぐいと内壁を押す医者の手は執拗で、苦しいし痛いしでただただ歯を食いしばらなければいけないこの時間が嫌で堪らなかった。 「甘ったるい匂いもするし、近い内に発情だな」  にやにやとした笑いは薄気味悪くて、近い内に発情期があると言われても曖昧に頷くしかできない。  初めての発情期から一か月半、この周期が普通なのかそうでないのか分からないけれど、これで清水正美さんに会えると言う事だ。  僕がここに遣られてからの間、正美と言う人に会った事がなかった。  何度か奥様が家の電話から帰ってくるようにと怒鳴っているのを目撃したので、もしかしたら正美さんも今回の無理矢理なやり方には否定的なのかもしれないと、微かな希望があった。  彼女もいきなり知らない男と跡取りを と言われてはいそうですか とは行かないだろうし、会う事が出来たならばきちんと話し合って当人同士でこんな異常な事を止める事だってできるだろう。  それは小さな期待だったけれど、僕にとっては大事な事だった。   「臭い」と大旦那様が呻くように言い、大奥様の視線が僕に突き刺さった。  どこか掃除が不十分な所があったのか、それとも何か片付け忘れている物があったのだろうかと慌てて辺りを見渡すも、自分ではどこに不備があるのか分からない。  困って野村さんに視線を遣るも、小さく首を振られてしまうと成す術がない。 「  はぁ、本当に獣と同じだこと 」  溜め息と共に吐かれた言葉が、Ωの発情期に対する物だと気が付いてかっと頬が熱くなる。  ケモノ と、一緒。  まともな扱いはされてはいないとは思っていたけれど、それでも人間に対する扱いだと思っていた。 「この間片付けた蔵に放り込んでおいて」  ぶるりと震えそうになった。  まるで道具を片付けておけと言っているような口ぶりに、視界が歪みそうになってぐっと唇を噛み締める。  大丈夫、彼女と話し合う事が出来れば、全ては解決する筈だから。

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