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青い正しい夢を見る 12

 力の入らないぐにゃぐにゃとした体は言う事を聞いてくれなくて、彼が僕をここから出そうとしている事は理解できたのに、動くどころか自分の体すら支えきれなくて突っ伏するしかない。 「な、  っ‼」  床から見上げた蔵の入り口で、男性が奥様に突き飛ばされて倒れ込むのが辛うじて見えた。 「それじゃあ頑張るのよ、正美」  まるでお使いでも頼むかのような軽い声音の後を追って、男性の苦し気な罵声が響いたけれどそれはほとんど扉の軋む音に遮られて聞こえない。  男性が床に膝をつく気配と、悪態を吐く声にどっと汗が出た。  正美?  僕と番わせたい相手は…… 「   あ、の  正美、さんは?」 「 は、ぁ?  ふざけんな……」  伏せた顔がそろりと上がり、憎悪が両目に宿って僕を見た。  その嫌悪の表情は生まれて初めて向けられるもので…… 「こ な、事までして、  そんなにアルファのタネが欲しいのか⁉」  一呼吸ごとに荒くなって行く呼吸に抗うように、彼は僕に向かって言葉を吐き出す。 「放っておいて っくれって! く そ   臭いっ最悪だっ 失せろ!」  もがくように、振り払うように腕を振り回す男性は泣きそうな顔をしたまま、なのに 一歩こちらへと歩み寄る。 「ぃ、いやだ。  この  」  圧し掛かるようにこちらにまた一歩歩み寄った彼の背は高くて、僕は自身が小さな子供に戻ったかのような錯覚に陥った。  頼りない光源が遮られて、深い影に覆われた彼は得体のしれないただの怪物のようで、あれ程話し合いを待ち望んでいた筈なのに恐ろしくて恐ろしくて……  這いずりながら逃げるよりも、彼が僕の方に近づいてくる方が早かった。  罵詈雑言は呻き声だけになり、荒い息を吐きながら足を掴んでくる頃にはただの獣のようだった。 「  ゃ、  あ、の、  僕、も  こんなの いやで  」 「  うるさい  」  うるさい うるさい と繰り返し譫言のように声が漏れる。  掴んだ手が火傷しそうなほど熱くて、思わず払いのけた。  いやだ  怖い  それは、暴力や怪奇と言った恐ろしさではなく、純粋に捕食対象になってしまったのだと言う本能的な怖さだった。

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