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青い正しい夢を見る 24
「 この傷 噛まれたのはいつ頃?」
そう尋ねられたのは首の後ろの傷だ。
歯の痕 と言うよりは噛みちぎられたようなソコは、もう傷口が塞がって痛みも何も感じない。
「一月前です。あ……何かおかしいんでしょうか?あ、これって消えるんですよね?」
「え?」
戸惑ったような看護婦の表情に不安げな表情を向けると、医者はにこりと笑い返してくれる。
「消えて欲しいの?」
「や そう言うのではないんですが、番にはならないって言われてるので、噛み跡が残るのもおかしいかなって……僕のヒートに巻き込まれたのが申し訳なくて、煩わせたくないんですが」
大人の男が涙を流すなんてよっぽどだ。
申し訳なくて仕方ない。
「それ は、ちょっと難しいかな」
曖昧な物の言い方が引っ掛かったせいか、それが落ち着かなくて。
「あの、もしかしておかしな事を言いましたか?」
「嫌なら答えなくていいのだけれど。君は、無理矢理噛まれたの?」
「え?」
慣れてしまっていた蔑みの視線がこちらに向かない事が逆に不安で堪らない。
彼らはなぜ、どうして僕に笑いかけるんだろうか?
もしかして僕は、二人が同情を向けなきゃならない程の事を、何かしてしまったんだろうか?
Ωだから、常識外れの事をしたのかもしれない。
人をあんなに傷つける、蔑まれるΩなのに、この二人の態度は柔らかで普通過ぎて、自分の悪い所が分からなくて俯くしかできない。
「いえ、僕が……オメガなせいで噛まざるを得ない状況になってしまっただけです。だから、悪いのは僕で 」
「 そうか」
こんな事を言うと、せっかく優しくしてくれた二人の態度も変わるかもしれない と不安な僕に、いきなり脱脂綿が手渡された。
脇に挟むようにと言われて面食らってしまい、訳がわからないままもたもたしても二人は穏やかなままだ。
「とりあえず検査しちゃおうか」
「これは 何の?」
「? フェロモン値を調べてヒートの周期を調べるものだよ?」
「 わ 脇、で、いいですか?」
顔色が悪くなった自覚はある。
そんな僕が不審だったのか二人は顔を見合わせて小さく頷き合っていた。
「他院での検査方法を聞いてもいいかな?」
ぎゅう と体に力が入る。
あの検査方法はなんと言えばいいのか……尻の中を触られた?柔らかさを調べられた?
四つん這いになって家畜のように尻の穴を弄られました とは言い出せず、服の裾をぎゅっと握って体に力を込めた。
医療行為の筈なのに言うのは酷く躊躇われて……
「 うちでは脇で採取して調べるから、痛くないよ」
「先生は注射は下手だけど嘘は言わないから大丈夫よー!ね?しばらく挟んでおかないといけないから、その間にお菓子食べようか」
問いに答えなくても良かった事にほっと安堵して、僕は俯いたまま小さく「ありがとうございます」と呟いた。
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