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青い正しい夢を見る 25

 僕を送り届けてくれた医者が何をどう言ったのか……  大奥様の叱責も何も受けずに済んだ僕に、帰り際に医者は綺麗なウインクを投げて寄越す。 「明日もう一度診察においで」  頭を下げて見送る僕にそう声を掛けて医者は帰って行った。  温かな物を飲んだからかお腹の辺りがぼんやりと火が灯ったかのように暖かくて、これからまた時間を過ごさなくてはならない屋敷を見上げると陰鬱な気分になってくる。  けれど、ほんの他愛ない会話とほんの少しの気遣いに、何かを掬い上げられた気分がして勇気を奮って門を潜った。  ぱたぱたと駆け寄ってくる足音で、それが野村さんだと分かる。 「大丈夫?帰りが遅いから心配で……」 「ごめんなさい 貧血を起こしてしまって……」  僕の手を取ってくれる野村さんの手は小さくて細くて、余程心配してくれていたのか小さく震えていて、でも温かなそれが嬉しかったから小さく笑って返した。 「遥歩さんの治療費はこちらで全額負担となります」  医者の言葉に奥様は胡乱な、胡散臭い詐欺師でも見るような顔をしていて、向けられた人間はどんなにか不愉快になるだろうかとはらはらしたけれど、医者は涼しい顔をして説明を続けてくれた。 「バース性専門医の資格が新たに設けられる事は?」 「噂程度に」  酔狂なこと と言葉が続けられたのを無視して医者は続ける。 「その為にバース性の方を探しておりまして。遥歩さんは少し体調の優れない所が見受けられるので、当院で診察を受けていただけるのであれば治療費等の請求は」 「かかりつけがございますので」  そうばっさりと切って終わらそうとした奥様に、医者は驚くでもなく続ける。 「高橋の先生でしょう?院を閉鎖されるお話はご存じですか?」 「は?そんな話  」 「ご高齢ですし、跡取りもいらっしゃいませんし」  一瞬、医者の瞳に昏い光が灯ったように見えたのは気のせいだったのか。 「  ここだけの話、後ろ暗い団体に付け回されていると噂もあります」 「は?」 「あまり懇意にされると、要らない火の粉を被る事も 」  立ち上がりかけた奥様が逡巡し、再び椅子に腰を落ち着け直したのを見てから、医者は書類を取り出して微笑んだ。

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