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青い正しい夢を見る 43

「今度こそはちゃんと孕みなさいよ!」  ささくれた木のように刺々しい言葉を背中に浴びたと同時に、背中をドン と突き飛ばされて蔵の中へと倒れるようにして入ると、暗い中に突然入ったせいか慣れている筈の場所なのに柱に強かに額を打ち付けた。 「  ────っ」  くら と視界が回る。  打ち所が悪かったのか……と思ってどこかに手をつこうとするも、ぶつけた際に方向感覚が狂ったのか、伸ばした先に指に触れるものはなかった。  体を支えなければ と思うのに体は傾いで、埃っぽい板の上に倒れ込んだのが最後の記憶だった。  青い冷たい底はひやりとしていて、夢の中に居るのか夢から覚めかけているのか判然としなかった。けれど指先の熱さと奇妙な息苦しさは嫌と言う程覚えのあるもので、発情期が始まったのかと夢うつつのような中でぼんやりと思った。  もうじき、正美さんが来る筈だから準備をして俯せないとと思うのに、柱で打った額の痛みに小さく呻く事しかできない。  きぃ   小さく扉の軋む音がする。  それは正美さんの訪れを知らせる音で、この音を聞くまでに僕は伏せていなければいけないのに…… 「   は?寝てるなんて呑気なもんだな」  小さな舌打ちと吐き捨てるように呟かれるセリフに、謝罪しなければと思うもうまく口が動かず、先程のように小さく呻いた。  溜息と、それから乱暴にズボンを引っ張られる感触がして、僕の額がゴリ と木の床と擦れて鈍い音を立てる。 「寝ててもいいから出すもんだしとけよ」  不機嫌さを隠そうともしないし、僕に対してはその事に関して遠慮する必要がないとでも言いたげた声音だ。  幾度か小さく舌打ちをして、動きをぴたりと止めた。  思案 それから、唸るような声を出して、冷えた大きな手が首元を覆ってくる。  それが何を目的としているのかは、次第に力を籠められ始めて気が付いた。 「  あぁ、もう、  ほんと  勘弁    」  くっと指先が血管を圧迫したのか、音が籠るような真綿に頭を突っ込んだような不思議な感覚がして、耳にはただ自分の鼓動の音だけが響く。  痛みの酷かった頭が更に痛んで、くぅ と塞がって行く喉から空気の漏れる間抜けな音がする。 「 ふ、は   あー……オメガなんかの為に、人生狂わせるのも  馬鹿馬鹿しい か」  吹き出す声と、放り出された自分の後頭部が立てる音と……

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