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青い正しい夢を見る 51

 夕食の際、大奥様達の言った言葉が理解できずに思わずさっと野村さんの方へと視線を遣った。  野村さんも盆を持ったまま、青い顔をして人外を見てしまった表情で三人を見ている。 「あなた、お父様の子を孕みなさい」  奥様の言葉に残りの二人も賛同していて、呆気にとられた僕と野村さんが馬鹿みたいだった。  大旦那様の子を、   ?  「おえが」とはっきりと発音できない口で呼ばれた事を思い出して、ぞわっと体が総毛立つ。 「主人は養子だし、私もお母様ももう子供が産めないからしょうがないでしょ?」 「男は幾つになっても と言うわよね?」  大奥様の同意を求める言葉に、旦那様の白々しい笑い声が響いて…… 「もう時間を考えたらこんな物飲んでる猶予なんてないから」  さっと傍らから取り出されたのは、遠目にも分かる程の毒々しい赤い色をした薬で、いつも飲んでいる抑制剤だと言う事がはっきりとわかった。 「それ  っ返してください!」 「うるさいわよっ‼オメガの分際で反抗するんじゃないっ!」  止めに入るのも間に合わない程の俊敏さで、奥様がその薬をお茶の中へと放り込み、醜悪と言ってしまいそうな笑顔を僕に向ける。  湯飲みの中に薬が溶けだしたのか、血のような赤がじんわりと広がって…… 「な  だって    」 「奥様っ大旦那様となんて、流石に酷すぎます!」  青い顔をした野村さんがそう言ったのが気に食わなかったのか、お茶を赤い液体に変えた湯飲みを投げつけてぎりりと目を吊り上げた。 「オメガを産んだ出来損ないがっ邪魔するんじゃないわよっ!」 「  っ!」  ぐっと言葉を詰まらせた野村さんは泣きそうな顔をしていて、娘さんの話を幸せそうに語る表情を知っているせいか、それが苦しそうだし僕も見ていて苦しくなった。 「オメガを産んだとかっ!関係ないですっ!野村さんは可愛い子供を産んだだけだっ!」  薬の溶けた茶がかかって、野村さんは出血しているように見える。  エプロンを急いで外して、それで野村さんを濡らす赤い液体を拭っていると、後頭部に激痛が走って首が後ろに引っ張られた。  ぶち ぶち と髪が抜ける音が皮膚を伝わって届き、鋭い痛みに息が詰まった。 「この  っ底辺のっ  股を開いて情けを貰ってでしか生きて行けないオメガの癖にっ!パンパンはパンパンらしく這いずっていなさいよ!」  乱れた前髪の間から見上げた奥様はもうすでに人らしい表情ではなく鬼か…妖怪か……  昏い目を爛々と光らせ、僕を見下ろして聞くに堪えない罵詈雑言を唾を飛ばしながら怒鳴り散らす姿は、いつもの気位の高そうな雰囲気の一片も残っておらず、正気じゃない……と感じさせるには十分だった。

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