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花占いのゆくえ 19
「ひっ」と小さな声に気付いて顔を上げると、朝日が建物の隙間からちかりとオレを照らすところだった。
顔の作りに似つかわしくない、驚いて崩れた顔を屋根から見下ろして、痺れた腕を何とか上げて「よ」と声を掛ける。
オレの軽い返事が気に入らなかったのか、六華は青だった顔色を赤に変えて、きゅっと眉を吊り上げた。
「喜蝶!何してるのそんな所で!」
「何って……薫に締め出されて反省してた」
「はんせ ?そんなことしなきゃいけないことしたの⁉」
「いいや?」
キスをするのは、反省するほど悪い事じゃない!
ってことは、オレは何を反省する必要があったんだろう?
「っ も、もー!って言うか危ないし不審者だし、やっぱり危ないからそんなとこにいちゃダメだよ!立てる?助けに行こうか⁉」
同じ体勢でうずくまっていたせいか、腕の一部と尻の辺りが痺れて動かしにくいが、助けてもらうほどのことじゃなかった。
大丈夫大丈夫と手を振って、痺れが残っている体を無理矢理立ち上がらせる。
「わっちょっ」
道路からおろおろと見ていた六華が慌てて間の塀によじ登ってくるけど、それを待たずに自分の家の窓に飛びつく。
「喜蝶っ!危ないって!」
「もう平気だっつってんだろ?」
「もぅ!」
口をへの字に曲げて、明らかに怒った表情の六華が塀の上で仁王立ちして「怒ってるんだぞー」と言ってくるが、なんの脅迫にもならないのは明白だ。
あんなところで胸張って立つと危ない と注意をしようとした瞬間、後ろから手袋を嵌めた手が伸びて六華を軽々と抱え上げた。
「 もうその辺にしとけ、六坊」
まるで綿菓子でも持ち上げるかのように、ふわっと頭上に掲げられて、当の本人である六華だけじゃなくてオレも目を丸くした。
細くて小さいと言えども高校生男子を軽々と持ち上げ、ふわりと地面に下ろすことのできる人間なんてそうはいない。
「と トラさん……ってことは 」
「アイちゃんも来てるよ」
「っ⁉見られた⁉」
ざぁっと顔色を悪くして、掴まった子猫のように項垂れてしまった。
「 こちらですよね?六華さんが怪我をさせた子のお宅は?」
背後から歩み寄ってきた人物の声を聞いて、六華はびくっと飛び上がってから項垂れ、小さな声で「そうですぅ」と返事をする。
「あちらの方が、その?」
「ん 俺が怪我をさせちゃった子」
「体は元気そうですね」
嫌味なのか、そうでないのか、オレには判断できないまま屋根の上から四角四面な感じのスーツの男を見下ろした。
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