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花占いのゆくえ 21
一晩薫の部屋の下でうずくまっていたせいかぎしぎしと鳴る体を伸ばして、「まぁ上がれよ」と顎をしゃくった。
「シャワー浴びたいからその辺で待っといてよ」
「時間間に合う?」
「急ぐってば」
なんだかんだ優等生の六華は遅刻するのが嫌なんだろう。
そんなに時計を気にするなら先に行けばいいのに と、思わなくもないが話があると言うのだからしょうがない。できればゆっくり風呂に入りたかったし、なんなら授業は単位が取れているのなら多少遅刻も大丈夫と思っているオレとは正反対だ。
本当にざっと埃を流すだけと言うのは納得できないが、急いで出て行くと六華はリビングに飾ってあるパネルの前で立ち尽くしている所だった。
「何してんだ?」
「あっコレっ じ、自分の顔をここまでおっきくって、照れくさくない?」
オブラートに包んではいたが、恥ずかしくない?と聞きたいんだろう。
花のような笑顔を向けるパネルを見て、この顔とオレが似ているのかと思うと、自然と顔が嫌な感じに歪む。
「オレじゃねぇよ」
「えっえっ⁉」
説明するのも面倒で、会話をバッサリ切るように「出るぞ」と強めに口に出した。
六華はちょっとパネルに視線を残したまま、と と とこちらに歩み寄ってからこくりと頷く。
大人しくそうやっていれば、可愛くないわけではない。
見下ろせばつむじが見えて、こんな小さい相手に投げられたのかと思うと不思議だった。
「……柔道、習ってたのか?」
「じゅ ?あ、柔道じゃないけど、幼馴染と一緒にちっさい頃ね」
「ふぅん? で?話があるんじゃねぇの?」
六華の話に食らいつくほどの興味はなかったけれど、なんとなく気にはなったので話を振る と、六華はちょっと言い出しにくそうに言葉を選んでから、そろりと喋り出す。
「ん……や、話って言うかさ、浮かれてる薫の隣にいるのがしんどくなってきちゃったから、息抜きに」
「 はぁ」
溜め息しか出ない。
「ばーか。どうせいいカッコして、それでも友達!とか言ったんだろ」
「だってぇ薫が幸せそうにしてるのは本当に嬉しいんだもん」
「だもん じゃねぇよ、ぶりっ子すんな」
細い髪をぐしゃぐしゃと掻き混ぜてやると、細やかな抵抗をしてくるけれどそれだけだ。
「まぁそれで、同じ振られた者同士、傷を増やし合えないかな と」
「お前ホントばかだろ」
慰め合うのもまっぴらだが、どうして好き好んで増やさなきゃならないんだか。
「傷口抉ってどうするんだよ」
「だってー 」
「そう言うのは一人でしろよ」
人を巻き込むな。
冷たい目で見下ろしているのが分かったのか、六華はきゅっと肩を竦めた。
「 喜蝶は、あんなとこにいたってことは、薫と何かあったの?」
叩かれた頬の痛みを思い出して思わず足が止まる。
良く分からないまま怒らせた後、無理矢理キスして引っ叩かれて泣かれた と言ったら、オレはまた投げられるんじゃないだろうか?
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