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花占いのゆくえ 34

『助けてっ!』  切羽詰まった風な声に驚いたけれど、その声は死か生か……なんて程は切羽詰まっていなくって、面倒臭いと適当な理由をつけて切ろうとしたのに、それを薫が押し留めた。  基本、薫は純粋でお人よし過ぎる。  悪意にも気づけないし、長年のオレのマーキングも憂さ晴らしの悪戯だと思っていた節がある。それでもいいと思って何も言わずに我慢するのが薫だ。  そんな性格だからか、ミナトの「助けて」が酷く響いたらしい。  呑気にこっちは会話していると言うのに、傍で顔色を悪くして様子を窺い、「僕に出来ることは言って!」と真剣な表情で言ってくる。 「困ってるなら、助けてあげなきゃ!」  えー……と思うも、真摯な表情で見つめられると否とは言えなくて…… 「────で?具体的にオレは何をすればいいの?」  これでちょっとオレの株が上がるかもしれない なんて下心で聞いてみると、ミナトはもうすでに助ける前提のような声で「モデルをお願い!」と嬉しそうに言ってきた。  モデル?  あまりいい感情の湧かない言葉に思わず眉間に皺を寄せると、薫が不安そうな顔で首を傾げる。 「  モデルが急にこれなくなっちゃってっそれでっお願い!」 「や すみません、そう言うのは……」  花の顔。  父が母を褒める際に使う言葉が耳に蘇って……正直あまりいい気分じゃない。 「  お願い!お願いぃっ!」  我儘のツケが回ってきた気分で、薫に見られながら渋々頷くしかなかった。  了承はしたけど乗り気でないことは確かで……  甘いバニラの匂いを離したくないな と思いながらも薫の肩を揺さぶって起こす。  オレが抱き締めているのに気づいた瞬間、ふにゃっとした笑みを見せてくれたけれど、それも一瞬のことであっと言う間に突き飛ばされてしまって、 「ぃった 」 「あっごめ っだって、 」  かぁっと耳まで赤くして、だっての先を言う前にバスから駆け下りてしまった。  一人車内に取り残されて、なんだか腑に落ちなくてむっと唇を歪めるしかない。  電話を切った後、内容を聞いた薫は親のことを知っていたからか流石に申し訳なさそうな顔になって、自分が勧めたせいだ……と肩を落とした。  確かに、薫の後押しがなければ断っていたのは間違いない。  でもやると答えたのは自分なのだから と、へらへら笑って言ったオレを心配したのかどうなのか、付き添うと言い張って譲らずに薫も一緒に来ることになった。 「  あれ?えーっと、薫くん?」 「はい、こんにちは 」 「こ んにちは」  のそのそとバスから降りるとそんな会話がされていて、けれどそれで話は終わってしまったらしく、お互いに微妙な笑顔でお互いの出方を窺っている状態になっている。

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