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花占いのゆくえ 33
指だけじゃなくて赤くなった耳も齧りたい。
このまま連れ帰って、発情期まで閉じ込めて、もう証明とかそんな煩わしいこと考えずに、オレの感情だけを最優先にして犯して項を噛んで……
番って、
犯して、
孕ませて……
そう、孕ませて、だ。
「…………かおる、だーい好き」
「だ、め だって。ミナトさんだって嫌がるよ!」
なんでこの場でミナトの名前が出るのか分からなくて、思わず「あ゛?」と変な声が出た。
急に妄想から引き戻された気がしてくらくらしそうだ。
「お付き合いしてるんなら、こんな誤解されるようなことはしちゃ駄目だよ」
「は?付き合い?」
ミナトとは連絡もやり取りしているし、一緒に出かけもするけどそんな仲じゃない。何を勘違いしてるんだ……と反論しようとして、それが自分の言った言葉だと思い出した。
あの時は、薫があいつに笑いかけるのに腹が立って腹が立って……いつもみたいにオレのことで感情が動けばいいなって、それだけの考えで出た言葉だ。
そもそも、ミナトとのマッチングだって薫に振られて自暴自棄になったからだし。
「不誠実なことは、しちゃ駄目だよ」
めっと叱られて落ち込みそうになったけれど誤解は誤解。
どう言ってその誤解を解こうかと眉間に皺を寄せたと同時に、オレと薫の境目で小さな振動がした。
「 っ」
「えっと……電話?」
無視しようとしたけれど、薫自身が無視できない質なせいかオレを見て「出たら?」と促してくる。
何度か出るか出ないか葛藤して、このままだと呼び出しが切れた後に薫に怒られるんだろうと思ったら、自然とポケットから携帯電話を出してボタンを押していた。
「喜蝶くんっ!助けてっ!」
キンッ と耳に来るような泣きそうなミナトの叫びは、オレだけじゃなくて薫にまで届いたようだった。
小高い丘の上を登りきると、空の青さと緑とに映えるオレンジと白の建物。
丘の一角を切り崩して作られたそこはミナトの通う芸術大学だった。
緩い坂をバスに揺られながら登っていると、とうとう負けてしまったのかコテン と薫の頭が肩に凭れかかってくる。
重くも軽くもないその心地い重みに飛び上がりたいのをぐっと堪えて、振動でずれないように と建前をぼやきながらその肩に手を回す。
そうすると一瞬乱れた呼吸が安心したようにすぅすぅと健やかな物に変わった。
このまま、降りずにぐるりと駅まで戻ろうか……
なんて馬鹿げた考えも浮かんだけれど、校門の前で大きく手を振っている作業着姿のミナトを見つけたらそうもいかなかった。
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