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花占いのゆくえ 32

 胸の中がくすぐったいのは、薫の髪の毛が触れているだけじゃなくて、久しぶりに薫が腕の中で落ち着いてくれているからだ。  いや、落ち着く……にはちょっと気まずそうだ。  丁寧に丁寧に、指の一本一本を包むように撫でて、小さくていい形の爪をなぞってくすぐって、それから掌に指先でくるくるとハートを描いてみせる。 「  あ、の、喜蝶。手を触るの やめて   」  恥ずかしさにか細い声でそう言う薫に、唇を突き出して噛む真似をして見せると、観念してまた項垂れた。  こんな場所じゃなけりゃ、全部ひん剥いて体中にマーキングしたい。  できればナカにも……と考えそうになって慌てて首を振った。  何をこだわっているのだと、人に聞かれたら笑われるかもしれないが、薫とはそうなるのは恋人になってからだと決めている。  だって初恋だし。  今も現在進行形で初恋だし。 「こうやってオレの匂いが馴染んだら、ヒートもまた楽になるから」 「俺は……別に 今、テーラーメイドで抑制剤も用意してもらってるし……」  そう言うと握っているオレの手から逃げようと力を込めたのが分かった。  一般の抑制剤が効きにくい体質の人に合わせて抑制剤を調合するシステムがあるのは聞いてはいたけれど、それですべてが解決できないのが現代の医療の限界だ。  ミナトもそれでパートナーを探しているんだし…… 「それもどこまで効くか分からないだろ?副作用もあるんだろー?」  逃げる手を摑まえ直して、傷の出来た唇に持っていくとまた少しの間だけ逃げるのを止めてくれる。 「そ う、だけど、 あの、喜蝶っやっぱり良くないよ!こう言うの!忠尚さんは嫌がると思う!」  また薫の口から出た名前にイラっとして、口元にあった薫の指に歯を立てた。  滑らかな皮膚と、その下の細い骨と、齧り取ってしまって食べてしまえば、他の誰の物にもならないのに と昏い考えが出る。 「『は』?薫『は』嫌じゃない?」 「えっ  」  揚げ足取りか?そうは思うも、オレと薫の間に割って入ってくる奴が現れた以上、手段なんか選んでいられない。  ──だって、オレは薫の秘密を知っている。  幼い日に一緒に見た母子手帳に書かれていたあの注意書きを見てしまったのは、オレにとっては今も忘れられない……忘れなくて本当に良かった思い出だ。もっとも薫はその時に自分がベータだと知ったショックの方が上だったみたいだけど。  ──だから、薫の匂いに気付く奴が出てきた以上、手段なんか選ばない。 「オレは薫『が』嫌じゃないんならいいよ?薫のことが一番に心配だし、薫が辛い思いをしなかったらいいなと思うし、薫のことが大事だよ?」  う と言葉を詰まらせた薫が顔を伏せてしまったけれど、黒髪の間から見える耳でどう言う表情をしているのかは手に取るようにわかる。

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