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花占いのゆくえ 31

 それを押し止めて、薫がオレの中で一番好きなんだろうなって感じている顔をぐいっと近づけて「ね?」と強請る。 「少しだけ。薫のヒート直前ですって濃い匂いを隠したいだけ」 「  それ それだけ?」  それだけ?  都合のいいように取れば深読みも出来る返事に、今度はオレが怪訝な顔をする番だ。  震えながら、それでもオレの下から無理やり出て行かないのは?  力の差もあるだろう、でも本気で嫌がるようなことはオレは薫にしないし、できない。  だから、これは? 「お願い、宝物だから、薫は。薫を、他の誰にも盗られたくないよ」 「な、に、勝手なこと   」 「薫の甘い匂いはオレのものだ、他の誰にも嗅がしたくない。だから、あんなにマーキングして匂いを消してたのに」 「っ」 「愛してるって言った!かけがえのないって思ったら運命なんだって!だからオレは薫がベータでもオレの運命だと思う!」  くっと詰められた息がそのまま止まってしまうのが怖くて、薫をぎゅっと抱き締める。  震える体に、どうか息をしてくれと願っていると、むずかる子供のように薫の体がオレを拒否した。 「  じゃあ ……なんでミナトさんなの⁉なんでベータなのっ⁉今更っ運命だって言うのなら、オメガじゃないとって言ってたのはなんなのっ⁉運命を感じたなら俺じゃないベータでもいいんでしょ!」 「薫以外に運命なんて感じたことない!」 「っ  でもっでも 付き合ってるって!喜蝶はいつも付き合った相手を運命って呼んでるでしょっ!」  堪え切れなかったのか、薫の目の縁から水が大きく盛り上がって、こめかみを濡らし場から滑り落ちて行く。 「だってさっさと運命を見つけて、それでも薫が一番だって証明したかったからっ」 「なん  な なに、それ  」  うるんだ瞳は逸らされずにしっかりオレを見てくれている。  涙で濡れると光が映って銀色のように見える両目をそっと拭った。  オレのことで感情を昂らせて、オレのことでこうやって泣いてくれているのが嬉しくて嬉しくて、飛び上がってしまいたい。 「  ────運命よりも薫を選ぶって証明して見せるから!」  ひくっとしゃくり上げた薫が、また驚きで固まった。  涙でしっとり濡れた大きな目をオレに向けて……ああ、愛しいなって思う。

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