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花占いのゆくえ 39

 ミナトの腕を離さなきゃいけないのに離し難くて…… 「あの子には、喜蝶くんじゃない人がいるんでしょ?」 「    」 「駄目?」  まっすぐに見上げられて、その瞳の中に自分だけが映っているのを見てしまうと、くらくらとするような抗い難い魅力がある。 「  ぁ、」 「僕、諦めて欲しくないって言われて、すごく嬉しかったんだ。ベータの癖にマッチングなんか とか、ベータの癖にアルファを探すな オメガじゃないんだから諦めろって、そうやって言われ続けてきたから」  小さくくすん と泣いている気配が伝わって。 「僕は、喜蝶くんのことを諦めたくないよ」 「……で、も   」  申し訳ないが、薫に似てはいてもミナトは薫ではないし、幾ら発情期が酷くてもβはβだから運命になれない。  この段階で、ミナトはオレの付き合いたい人間のリストから外れてしまっている。 「  だ、め、なのかな?」 「…………」  はっきりした表情は出来ていなかったけれど、その曖昧な態度でミナトは察したのかくしゃくしゃと顔を歪めて、小さく首を振った。 「   好き」  ぎゅうっと背に回された手に力が籠り、更に告白もあってその腕を離すタイミングを見失ってしまって、オレは途方に暮れて項垂れた。  恋愛対象かそうでないかと問われれば違うのだけれど、その黒髪や雰囲気が薫と似ていて、きっぱりと突き放すことを難しくさせる。 「ため し、でも いいから」  食い下がられて、薫に雰囲気の似たミナトが泣きながら懇願してくる姿は、チクチクと心の柔らかな部分を繰り返し突くようだ。  薫に忠尚がいる。  その言葉の重さにキシリと心が軋む。  薫の性格上、二股なんてしないだろうし、それはオレの中のαが許せない。  αはパートナー共有を良しとしない。 「彼 と、付き合いだしたって、邪魔しないからっこうやって、会って、マーキングしてもらえるだけで十分だからっ」  擦りつけられたミナトの黒髪の間からは、微かにオレの匂いがする。  人を征服することに満足を覚えるのは、αの本能だ。 「……マーキングだけなら」  はっと震えた体が飛び上がって、オレを見上げてぱぁっと笑った。  花の顔。  父が繰り返すその言葉をここで思い出すとは思わなかったけれど、ミナトがオレに向けて見せてくれたその満面の笑みはどんな花よりも華やかで綺麗だった。 「  嬉しいっ!ありがとうっ!」  再びぎゅっと抱き着かれると、甘い甘いミルクの匂いと味が口の中を満たす。  飴のようなその甘さに脳髄がぐらりと揺れるような錯覚がして、思わずミナトを押し退けた。 「っ  ミナトさん、もしかして、もうすぐヒート?」 「あ……うん、わかっちゃった?あと一週間くらいなんだけど……匂いが出ちゃってるのかなっ喜蝶くんといるからかな?」  ふんふんと自分の匂いを嗅いでみるけれど、Ωはα程フェロモンを感じ取れない筈だから、自分の匂いに気付くかどうかはわからない。

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