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花占いのゆくえ 40
「僕、ヒートが酷くてその間は薬も効かないんだ」
「それ辛いやつだ」
オレのマーキングの効果が切れて、激しい発情期に振り回されている薫を見た事がある。
精神的にもだろうけれど、肉体的にも常に相手を求めて体が疼くのは辛いだろう。
「うん……だから、パートナー探してて……って、あのっあっちの相手って意味じゃなくて!いやっ恋人は欲しいんだけどっ喜蝶くんはまだ高校生だし!ちょっと、マーキングをお願いできたらって‼何でかって言うと 」
慌てて言葉を繋ぐミナトはパニックに陥りそうな気配があって、オレより低い位置にある黒い頭をポンポンと叩いて落ち着かせた。
「マーキングによるオメガ因子の不活性化……だっけ?」
言葉を取られてミナトはきょとんとした。
「知ってるの?」
「オメガの隠蔽とかって話だろ?優性の強いアルファのマーキングには、自分のオメガを取られないように隠す効果もあるってやつ。匂いがしにくくなるのやヒートが軽くなるのはその副産物だったよね?」
ぱぁぁっとミナトの顔が明るくなる。
「すごい!知らない人も多いのに!」
薫のあの匂いを独り占めしたくて、年不相応な本から何からいろいろと読み漁った日々は懐かしい思い出で、結局オレにこの話を教えたのは父の写真が載っているからと手渡された雑誌だった。
それを応用したコロン?香水?の話に書かれていた。
優性の強いαのフェロモンを再現した香水を作る事が出来れば、薬やαに頼らずにΩやΩ寄りのβの発情期を軽減することが可能ではないのか とか言う記事だった筈。
いろいろ書かれてはいたが、オレに衝撃を与えたのは薫を他から隠すことが出来る の部分だった。
「だからマーキングだけでもしてもらえたらって!楽になれるかもだから」
恋人になってもらったら嬉しいけど……と呟かれた言葉は聞こえなかったことにした。
ただ、マーキングくらい側にいたらしてしまうこともあるし、そんなことくらいならお安い御用だ。恋愛を持ち込まれるのは戸惑うけれど、ミナトと出かけたり話をしたりするのは嫌いじゃない。
独りを誤魔化すことができるから……
「じゃあ、とりあえずマーキングだけ。それ以外のことは……」
「保留でいいよ!しょうがないよね」
えへへ と笑ってくれた表情に救われた気になって、ほっと胸を撫で下ろす。
「ただ、あの、僕が君に好意を寄せてるって、覚えててくれる?」
ブレザーの袖口をちょい と引っ張られてそう言われると、庇護欲をそそられて否は言えなかった。
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